面倒事は嫌い


 出会いはいつだって偶然だ。偶然は必然、なんていうけど結局はあまり本質的な部分では替わりないと思う。



 日も暮れ始めた頃だった。
 お気に入りの飴を作る材料が切れてしまったので、工具の買い足しも兼ねて久々に街に出た。いつも地下に潜っているせいで日の光が眩しかったのを覚えている。新発売のグリップ改良レンチ、珍しい型のボルトやビス、ナット。静岡産の新茶に有名な老舗の和菓子。ついつい買い物に夢中になってしまい日も傾き始めてきたので、名残惜しくも帰路につく。

 予定よりは出費が多くなってしまったが、この新しい部品でモスカ達をもっと強く出来るかもしれないと思うと自然と心が躍る。あそこの構造をもっと単純化したら動きが素早くなるはずだ。そしてその分死ぬ気の炎の変換率を上げて……。


「ん?」


 頭の中にいくつも浮かんでくるアイディアを忘れないようにと歩いていると、電柱の影にうずくまる人影が視界に映り込んだ。面倒事は嫌いな質で、いつもなら無視を決め込んで通り過ぎるのだが今日は違った。


「(黒い、着物……?)」


 全身真っ黒で装飾のかけらも無い着物。腰には資料でしか見たことの無い日本刀。髷は結っていないが自分が日本に来るまで思い描いていたサムライによく似た出で立ちをその女はしていた。
 思わず駆け寄って声を掛けてみるが返事は無し。肩を叩いてみてもこれまた反応無し。きょろきょろと辺りを見回すが彼女の知り合いと思わしき人物は疎か、人影自体無い。


「(とりあえず連れて帰るか)」


 荷物を片手に彼女を担ぐ。思ったよりも軽い体重に少し驚いた。ツナギ姿の外人に担がれた黒い着物の女。端から見ればシュールな図だが、アジトまで後少し。誰にも見られないだろう。







面倒事は嫌い



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