交わる捻れの位置


 嗅ぎ慣れないオイルの匂いが鼻につく。軽い頭痛に目を覚ますと見たことのない部屋にあたしは寝ていた。枕元に置かれている二つの盆栽。きょろきょろと見回してみれば掛け軸や行灯など見慣れた家具が目に入る。そして一際目を引くのがベットの横には立派な額縁に入れられた"酢花゜"という文字。なんて読むんだろうか。す、す、すはなまる……? だとしたら酢花丸と書くよな。というか酢の花って。うーん。普段、事務処理ばかりやっていたから漢字には少し自信があったけど、これはさっぱり見当が付かない。


「起きたのか」

「うわあ!」


 結局妥当な読み方が思い付かなかったので、また暫くぼーっと部屋を観察していると背後から声が掛けられた。びっくりして勢いよく振り返ると綺麗な金髪が目を引く長身の男が湯飲みを持って立っていた。


「あなたは……?」

「ウチ? ウチはスパナ」

「……もしかして技術開発局の方ですか?」

「ギジュツカイハツ……? 多分違うと思う」


 ぎこちない発音。個性的なオーラが漂っていたから技局の人だと思ったけど、技局自体を知らないということは恐らく現世の人間だろう、着ている服も見慣れない物だし。だとすると無事現世に着くことができたのかな。


「あんたが道に倒れてて、話し掛けても返事がなかったからウチのラボに連れて来た」


 あたしが見えるということはスパナさんという人はある程度霊力があるのだろう。一度死んでるからこういうのも何だけど、死なずにすんで良かった。気を失っていただけで、どうやらどこも怪我していないようだ。助けてくれたスパナさんには感謝しなきゃ。

 しかし安心したのもつかの間、何故現世に着くことが出来たのだろう。思い出そうとしても断界で拘流に飲み込まれてからの記憶がはっきりしない。ついさっきの事のようにも思えるし、随分と昔の事のようにも思える。分からないことだらけで頭がパンクしそうだ。うーん、と唸るあたしを見かねてスパナさんが何処からか出してきた棒付き飴をくわえてため息を一つ。


「何があったか知らないけど、」


 す、とスパナさんが手に持っていた、まだ湯気の立つ湯飲みをこちらに差し出す。ふわりと微かに香る緑茶の匂いが鼻を掠める。


「とりあえず茶を飲め。気分が落ち着く」
 考え事はそれからでもいいだろ、と微笑んだスパナさんに柄にもなくどきりとしてしまう。頬の熱をごまかすように、受け取ったお茶に慌てて口を付ける。知らないうちに渇いていた喉を潤したそれは、いつも飲んでいるものと大して変わらない筈なのにとてもおいしく感じられた。







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