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こつん、と頭が壁に当たって、もうこれ以上逃げ場がないことを雅に伝える。それでもぎりぎりまで壁に背中を押し付けて、少しでも距離を取ろうとぴたりと壁に身体を押し付けた。
壁と触れているところから伝わる温度は冷たくて。どくんどくんと心臓は緊張で煩いくらいに脈打って体温は上がっている筈なのに逆に下がっていっている気がする。
「………っ」
じりじりと壁際ぎりぎりまで雅を追い詰めた元凶の直弥は、逃げ場がなくなった雅の動きを封じるかのように雅の顔の横に手を付けた。ぴくりと肩が小さく跳ねる。
「…こんなことして、楽しいの?」
「………」
問い掛けるも答えが返ってくることはない。代わりにくつりと嗤いが返ってきた。顔の横に有った手が今度は頬に添えられて、触れられたところが熱を持ったような感覚に襲われる。熱を孕んだ綺麗な紫の瞳に真っ直ぐ見つめられて、逃げられない。
「っ、」
「逃げるな」
反射的に顔を逸らそうとしたけれど頬に添えられた手の所為でそれは叶わなかった。無表情の雅の顔にたらりと一筋汗が伝う。
「は、なして」
「自分の気持ちから逃げるのか?」
「ッ」
直弥の顔が至近距離まで近付いて、鮮血を思わせる紅の髪がはらりと雅の視界の端に映った。
雅の瞳は直弥の瞳との間で揺れている。
「少しくらい甘えろ」
耳元で甘く囁かれて強引に唇を塞がれる。抵抗したいのに抵抗できない身体がもどかしい。
視界は紅に覆われて。それ以外の色が認識できなくなった。
甘く痺れる思考と力の抜ける身体に抗うことはできず。
このまま溶けてしまいそうだと思った。
柔らかく身体を包み込む腕と握られた手はとても優しくて暖かい。下がっていた体温がゆっくり上がっていく気がした。
結局逃げても捕らわれる。
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