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(……失敗した…)

たかが強風だと侮ったのが間違いだったのか、天気予報などあてにならないと鼻で笑った罰が来たのか。ともかくたかが強風、されど強風。自然の脅威を馬鹿にしてはいけない。深く考えずに那智からのお使いという名目のパシリを軽く受けた自分を佑真は恨んだ。

「っと…沙夜、大丈夫?」
「だ、大丈夫…」

流石に吹き飛ばされはしないだろうが、自分よりも小さい沙夜の盾になるべく佑真はさり気なく彼女の身体を自分の後ろへと移動させる。大丈夫と答えた沙夜ではあるがさっきから派手に長い黒髪が舞っている。手で押さえてはいるようだがそれでもふわふわなんて可愛らしい表現では収まらないくらい、当てはめるならばびゅうびゅうといったほうが相応しいくらい長い髪が風に翻弄されるかのように広がっている。今にして思えば「どうせだから沙夜と二人っきりで行ってきなさい」という那智の甘言にまんまと乗せられたことを恨むしかない。

頼まれたものが飛ばされるという心配はないが、自分はともかく隣の沙夜のほうが心配である。寒くはないがこんな強風では髪が長いと絡まるという心配や何処かに引っ掛かるということも有り得るだろうし。

「きゃっ…」

小さく悲鳴が聞こえて、何事かと思う佑真だったがその心配は杞憂に終わった。どうやら風が目に当たって思わず悲鳴が上がっただけだったらしい。ほっと安堵の息を吐いて、ひとつの考えが佑真の頭に浮かんだ。鬱陶しいくらいに吹き荒れる強風も、利用の仕方によってはいい思いをすることの出来る道具に変わる。ならば存分に利用しない手はない、と佑真はほんの少しだけ強風に感謝する。無駄だと思った知識も意外と役に立つものらしいと半分は恨み言、もう半分は嫌味とほんのちょっとの感謝を込めて自分にそんな知識を植え付けた那智へと御礼をしようと決意した。

「…沙夜、もっとくっ付いていいよ」
「え、ん…そ、うする。ありがとゆーくん」

申し訳なさそうな笑みを浮かべて素直にぎゅうっと引っ付いてきた沙夜に佑真は内心ほくそ笑む。天然だとこういう時何の疑いもなく従ってくれるので此方にとってはお得である。ぴたりとくっ付かれて体温がじわりと感じられてけっこう得した気分を味わえるものだから一瞬強風様々だな、なんて思った佑真だったが。

(…げ、雨)

唯でさえ強風が吹き荒れているだけでもかなり迷惑なのにぽつぽつと雨まで降ってきて、上がった気分も一気に急降下。おまけに傘を持っていないので余計に気分は降下する一方である。さてどうしたものか。

「沙夜、どっかで雨宿りしようか」
「…そうするしか、ないよね」

家まではまだまだ距離がある。走れば良さそうなものだがけっこう雨が大粒なので恐らく着く頃にはずぶ濡れになっているだろう。それで風邪に罹ったりでもしたらそれこそシャレにならない。だったら素直に何処かで傘を買うか雨が小ぶりになるまで待つのが得策だ。

(…ま、いいか)

どうせふたりきりに変わりはないし、その分また自分はいい思いをすることが出来るのだから。時間は幾らでもあるし、那智にはメールでもしておけば大丈夫だろう。何よりも暫くはふたりきりでいたい気持ちのほうが強かった。

沙夜の手を引いて丁度在った喫茶店に向かいながら、強風と雨に少しだけ感謝した。
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