精一杯の呆れた視線
「…よし、いいだろう」
「有り難う御座います」
十番隊の隊長である日番谷に書類を確認してもらいに雅は今現在終わったばかりの書類を手に日番谷の前へと佇んでいる。因みに書類の量が日番谷の机の上に載せられていた枚数と雅の運んできた枚数が余りに大量で机に載りきらなかった為、少しずつ日番谷がチェックをしてそれを雅が受け取る、という形になっている。余談だが、日番谷の机の卓上を占めている書類の半分以上は、彼の副官である松本乱菊が放置して(隠して)いた書類である。日番谷の眉間に深く刻まれた皺を見て、雅は言いようのない同情を覚えた。──同じ様な苦労を味わっているからだろうか、同時に微かな怒りも覚えた。

ふと、日番谷は今現在のこの事態をどう思っているのかと疑問に思った。

雅個人の考えとしては、一部隊を率いる隊長ならばしっかりと真偽のほどを見極めてほしいと思う。けれど世の中、予想した通りに進まないのが自然の摂理であり理である。あまり期待してはいけない。

だけれど別に雅にとっては例え日番谷が真実を見極めていようがいまいが、どうでもいいのだ。

自分に関係はないのだから。

完全なまでの無関心。飛沫の隊員達以外に関心を向けることのない雅は護廷内でどんなことが起ころうとも傍観・静観を貫いている。下手に関わるとろくなことがないからだ。

けれど飛沫の隊員であれば話は別になってくる。雅にとっては家族と言っても過言ではない彼等は彼女の中での優先順位が結構高い。だからというかなんと言うか。けれども今回の件に関しては関わらないと彼女は決めている。

上司の問題に頼まれもしないのに部下が首を突っ込むのはどうかと思うし、それになにより直弥がそう簡単にやられるとは思っていない。どちらかというと直弥はやられたらやり返すタイプの人間である。まさか自分がぼろぼろになるまで耐えるなどという愚行を犯すとは思えない。第一怪我を治すのに呼び出されることがしばしばあるから怪我で倒れるということは起こらない。

そこまで考えて、雅は思考を中断する。黙って佇んでいるだけとはいえ、ぼうっとしたような顔をしていれば不審がられる。普段が無表情なので気づかれないとは思うが、念の為である。


一体どれくらい書類の確認に掛かるのか時間を気にする頃になって漸く大量の書類の確認が終わった。一礼して、口を開いた雅は感情を悟られないよう、抑揚のない口調で言葉を口にした。

「それでは書類を届けに行って参ります」
「頼む」

疲れたような声色の日番谷に、頼むから直弥には松本乱菊のようにはなってほしくないと切実に願う。させる気もないけれど。
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