子供らしいことを余りしない旬の、珍しくも微笑ましい行動を、彼等は反応こそ様々であったが、内心笑みさえ浮かべて見守っていた。ほわんと和やかながらもほのぼのとした、およそ倉庫というシチュエーションとは到底かけ離れた空気が彼等の間に流れ始める。場に流れる空気が少し緩み、ほんのちょっとの暖かみを帯びたとき。本日二度目の、ぎいぃという鉄同士が擦れ合う耳障りとも思える、扉の開かれる音が彼らの耳に届いた。

事前に近付いてくる霊圧でその音を発したのが誰かわかっていたので、驚かない。彼等の反応は至極冷静なものだった。

と、ついさっきまで直弥に抱きついていた旬ががばりと顔を上げ、今度は足音一つなく、倉庫の隅のほうに固まっていた彼等のところへ静かに歩いてきていた雅へと抱き着く。それに彼女は大して驚いた反応もせずに、幼子を抱き止める。無表情の所為でそうとは見えないが、これで内心では悶えまくっているというのだから驚きだ。

足音が全くなくとも、気配を辛うじてだが感じ取れる程度には出してくれているので、わざわざ後ろを振り返らずに彼女が近付いてくることを知れる。最早彼女の癖のようになってしまったこの所作に、直弥は小さく眉を寄せた。自分達の前でくらいやめろと常々言ってはいるのだが、やはり身体に染み付いた癖のような、習慣とも言えるものはなかなかやめようと思ってやめられるものではない。


自分の腰辺りにしがみつく旬の手を握り、そのまま足を進める。表情こそ変わらないが、優しげに瞳を細める雅とにこにこ嬉しそうに笑う旬の組み合わせは、親子とも、些か歳の離れた姉と弟のようにも見える。子供らしい足音を静かすぎる倉庫に響かせながら歩く二人はとても仲良さげだった。そして雅が旬の手をとったとき、旬が勝ち誇ったように満足げな表情を浮かべていたことを、理性を総動員させてスルーした。誰にも知られることのない、直弥の心中に渦巻く葛藤である。

少し早足で、それでも足音を一切立てずに直弥の前まで来た雅は、呆れたような溜め息を吐き出した。唯一彼女の感情の変化が読み取れる直弥は、内心でのみ「うげ」と嫌そうな声を漏らす。雅が己の今現在の状態に、大いに呆れているのがわかってしまった。心なしか、向けられる視線が棘を含んでいるようで痛い。

「………随分と、手酷くやられたようですね」

こんなときまで敬語なのは、最早雅の治しようのない性格の為である。こればかりは此方が何と言おうと変わることはないので、早々に諦めた。

「………」

彼女が指摘したのは外見の痛々しさだ。確かに見ているだけでも痛々しいとは思う。彼が気にしていたのはダメージのみだが、見える傷もそこそこに重いので、否定ができない。外傷はそこそこであるのだが、筋肉なり内蔵なりに受けたダメージのほうが深いんじゃないかとも思う。
何も言えずぐっと押し黙れば、す、と雅が自分の前にしゃがみ込む気配があった。

それと同時に、周りに居た者達がそそくさと去っていく気配もあった。雅の着物の裾を握り締め、傍にくっ付いていた旬でさえ、潔くぱっと手を離し、ととと、と走り去っていく。──どうやら要らない気遣いをされたらしい。二人きりにさせようという魂胆が見え見えの、けれど直弥にとってはとても有り難いといえば有り難いかもしれない気遣いだった。
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