◆寂しがる(虎兎)


久しぶりにオフィスを定時に抜けて帰宅したバーナビーを待っていたのは、しんと静まり返った無機質な空間だった。

「……?」

バーナビーはぱちりとひとつ瞬きをする。
なんだろう、この違和感は。
いつもと変わらない自分の部屋なのに。
静かな空間に、こつこつと靴音が反響する。
余計な家具が一切置かれていないその部屋は、一人暮らしには些か広い。
きっと、最近は二人で酒を飲むことが多かったからだろう。
少しだけ、寂しいと思った。
何日もひとりきりでいても、以前はそのようなことを感じることすらなかったのに。
そんなことを考えて、バーナビーは苦笑する。
虎徹に出会ってから、バーナビーの世界はゆっくりと…しかし確実に開けていった。
離れすぎず、かといって踏み込み過ぎず。
絶妙な距離を保ったまま、じっくりと時間をかけて、彼はバーナビーの中に自分の居場所を広げていった。
いつの間にか、傍らに虎徹がいるのが当たり前になっていて。
それに気付いた時は、自分の弱さに苛つきもした。
けれども、そんな生活も悪くはない。
そう思えてしまうほどには、バーナビーは虎徹に絆されていた。

「(早く、明日になればいいのに)」

誕生日に貰った兎のぬいぐるみを抱き締め、瞳を閉じる。
鼻をうずめたその兎からは、微かに虎徹の匂いがした。





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