「指、」
「えっ」


だから指、塗り直さないの?と彼に言われ視線を落とすと真っ赤な、しかしながら爪の先と付け根のマニキュアが剥がれ落ちた爪が目にはいってきた。


「きっちり塗るの、好きではなくて」
「ふうん。でもそれだとだらしなく見えるよ」
「そうですね」


かつての私ならきっちりと、少しでもマニキュアが剥がれてしまった塗り直していた。可愛らしいピンク色を、完璧に、はみ出すことなく、爪に乗せると達成感と満足感を得ることが出来てそれだけでハッピーな気分になれた。


けれどどうだろう。今は品のない真っ赤な色を爪に乗せている。左手の人差し指なんてだらしなく塗装が剥がれて爪の中央にしか残っていない。だらしがない、それは今の私にぴったりな言葉である。堕落した私はただただ目の前の欲に埋もれる日々を過ごしている。現に今の格好は下着姿だ。水色の、胸元には安っぽいサテン生地のピンク色をしたリボンが付き、さらに白いレースがあしらわれてる、横から見ると胸元に付いているのと同じ生地のリボンで編み上げになっているブラジャーとセットになったパンツしか身に付けてない。


時刻は午後2時過ぎ、隣にははだけたシャツから白い肌を覗かす藤先生。不健全極まりない。藤先生が淹れた珈琲の香りだけが正常さを示している。


堕ちていくのは簡単だ、いつか言われた言葉がリフレインする。重ねる日々の先にはもう何も待ち受けていない気がしてきた。これは停滞だ。相変わらず彼は愛を囁かないし、私は囁く。それで満足しているのだから救いようがない。腐敗は止まることなく進み続けいつかは……


「なにを考えているんだ」
「……なにも」


考えていませんよ、と言う前に口を塞がれてしまった。こうして思考が停止する。いつか読んだ本に思考の停止、それは即ち依存であると書いてあった。依存かあ、私、彼に依存してるのかななんて野暮な問いを自身に問いかけながら私は目を閉じてさらなる深みへ身を沈めた。
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