少し前から息を吸うことが辛くなった。吐き出すことも辛くなった。ついにはうまく呼吸ができなくなってしまった。




 ごほっ、厭な咳が出始めてもう一週間は経ってしまった。治る気配はなくむしろ悪化していく一方で、私の体力は落ちていくばかりだった。
学校には一週間近く行っていない。中学に通っていた頃は友達と呼べる人はおらず、長期間学校を休んでも心配する人間はいなかった。けれど今は違う。一人、また一人といつの間にか友人と呼べる人が増えていき、気づけば大所帯となっていた。普段ならば今頃お昼休みで、皆で騒がしくお昼ご飯を食べているはずだ。夏帆が作ってくれたお弁当をつつきながら、夏帆と夏目君の喧嘩に近いやり取りを聞く。聞くことに耐えかねた桐島先輩が怒れば光先輩がそれを茶化す。昔ならあり得ない話だが、学校にいる中で一番楽しいと思える時間になっていた。


 しかしどうだろう、我ながら薄情な話だと思うが学校に通えないことにそこまでの寂しさを感じない。むしろ通えなくて良かったとすら思ってしまう。そのことに軽い罪悪感を抱くことはあってもやはり寂しさを抱くことはなかった。どうしてだろうと自問してみたところで答えは明白で、寂しさは全部兄さんが埋めてくれるからだ。私が小さい時からそうしてくれた。継母が亡くなって心にぽっかりと空いてしまった穴を埋めてくれたのは兄さんだ。今でも私の心を満たしてくれる。


 喉からヒューヒューと息が漏れ肺に酸素が届かなく、苦しい。あと数秒もすればこの音を聞きつけた十夜兄さんが駆け付けてくれるはずだ。息苦しい、早く来て下さい、兄さん。なんせ私は貴方の海でしか泳げない魚なのですから、貴方の中でしかうまく呼吸が出来ないのですよ。



魚は水がなければ死んでしまうよ。


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