アメリカのジュニアカップで、無事勝利を収めた僕。
まさかあそこで瀬人にエンカウントするとは思わんかったぜ……しかも勝てるなんて全然思わなかったよ…。

まあなんにせよ、コレで漸く日本に帰れる!と思っていたら。



「せっかくだからエジプト行かんか?」



じーちゃん、貴方どれだけフラグ立てさせたいんですか。




















嘘だろおおおおお!!?と叫ぶ僕を引きずって、やってきましたエジプト空港。そう、エジプト空港。


…いきなり物語の核心の地ですかああああああああああ!!!!!


がらがらとキャリーケースを引きずりながら、僕は本格的に泣きたくなった。



「ほっほー、久しいのうエジプト!」



なんてテンションあげてるじーちゃん。久々に人に対して殺意がわいたぜ。

てか、なんでエジプト?アメリカからエジプトって、どういうルート?日本通り越してますよおじーさま。遊理ちゃんちょーっとよくわかんないですねー…。



「遊理、ここはな。ワシが若い頃、千年パズルを見付けた国なんじゃよ」



けれど、僕の手を引きながら言ったじーちゃんのその言葉に、ぴく、と小さく反応してしまった。



「昔からエジプトにはよく来とるんじゃ。何せ、エジプトは様々な力が渦巻く不可思議な土地じゃからのう。来るたびに新たな出会い、発見がある。遊理、きっとお前にとっても、何か感じるものがあるはずじゃ」



空港の自動扉が開く。
ふわり、と香ったのは、ほんのりと砂の匂いを含んだ風。
自然と、言葉が続かなかった。静かになった僕の手を引いて、じーちゃんは再び、歩き出した。

















タクシーを乗り継ぎ、とある町へ降り立つ。
土で作られた家々が立ち並ぶ、どこかエジプト“らしさ”を感じさせる街だった。

じーちゃんに手を引かれながら、僕は周りをキョロキョロと見回す。
当然ながら周りは褐色の肌を持ち、体が大きいエジプト人ばかり――――かと思いきや、意外と肌が白い人や僕らのようなアジア系の顔立ちの人も多かった。
じーちゃんが言うには、ここはよく観光客も訪れる比較的治安のいい土地らしい。

露天に並ぶお土産の数々を眺めるじーちゃんの傍らで、僕はふと空を見上げた。



「…………」



少し砂の混じった黄色い風が流れている。
けれどそれがふとやんだとき、広がるのは美しい青い空だ。



エジプト――――遠い未来、けれどいつか必ず僕も訪れることになるだろう、運命が集う土地。

僕はそっと自分の手を見下ろした。
いつもこの手に握られていた片割れの小さな手は、今はここにない。


未来を知る僕にとって、この国は、世界は、特別な場所。


そんな僕のセンチメンタルな想いなんて露知らず、じーちゃんはひょいひょいと露店を覗きながら楽しそうにどんどん先へ進んでいく。
じーちゃん、もうちょいゆっくり歩いてくれ。歩幅が違いすぎるんだよ!



「おおっ、あんな所にナイスバデーのネーちゃんが!」

「…じーちゃん?」



ひゅるりらー。

その時の僕が祖父を見る眼差しはとても冷たいものだった。
そんな僕の視線にじーちゃんはハッと冷や汗を流して「ワシはバーさん一筋じゃ!」なんて力説するじーちゃん。別に聞いてないから。

はー…と思わず溜息が零れる。
じーちゃんは乾いた笑いを浮かべながら、「遊戯への土産はどれにするかのう?」なんて話題を変えようと必死だ。まぁ遊戯へのお土産はアメリカで買う時間もなかったし…僕もあのコの喜ぶ顔がみたいから、仕方なくその話題変換に乗ってやる。



「……あ」



そしてふと覗いた店先で、目に留まったのはシルバーやゴールドなどのアクセサリーが並ぶ棚。
エジプトでは神聖な生き物とされるスカラベやコブラを模したものや、ホルスの目を象ったものが並ぶ中、僕が手に取ったのはシルバーのアンク。
太陽の光を浴びてきらりと輝く銀のペンダントトップに、暫し目を奪われる。



「…じーちゃん」

「ん?いいのあったかの?」

「これ、アンク欲しい」

「アンク?ホホ、また良いものを選んだのう」



じーちゃんにそれを見せると、案外あっさりとOKがもらえた。
せっかくなので、大会で優勝した賞金で購入することにする。店の主人にそのアンクを差し出し、ついでに宝石で出来たスカラベも一緒にチェーンに通してもらった。
一つは遊戯にと、お土産用の小袋に入れてもらう。

僕の分は、先に首から提げた。


アンクとスカラベは、生命の復活の象徴。
胸の中に渦巻く様々な想いを込めて、僕はそっと首からぶら下がったシルバーのアンクと真っ黒なスカラベを握り締めた。



「…お待たせ、じーちゃん。次行こうか…………………」



さて、遊戯へのお土産も無事ゲットしたところでじーちゃんを振り向いた僕。今、ものすごく冷たい目をしています。



「ホホーウ!さすがエジプト、女の子のレベルも高いのお!」



おい、ばーちゃん一筋発言はどこにいったクソジジイ。
若い美人なおねーさんを前に、だらしなく目をハートにさせてデレデレなじーちゃんに頭を抱える。
僕は恐らく日本があるであろう方向を見た。拝啓遊戯、お元気ですか。僕は元気です。お願いだから君はこんな風にはならないでね。


僕は腕を組み、深々と溜息をつく。


そして、ふと視線を右に流して―――――一瞬、呼吸が止まった、気がした。

目を見開き、固まったように動かなくなった僕に、店の主人がどうしたんだと声をかけてくる。でも、その声もどこか遠くに聞こえた。とくん、とくんと心臓が脈打つ音が少し大きい。
僕はふらりと、そちらへ足を向けた。一歩一歩、まるで何かに導かれるように、ひきつけられるように僕はそちらへ向かう。



そうして目の前に広がった光景に―――僕は息を呑んだ。








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