夢を見た。


褐色の肌を持つ誰かが、私の名前を呼んでいた。
その宝石のような瞳を細め、私の手を取り、私の名前を呼んでいた。

青い空が眼に眩しい。
私はその人物をよく知っていて、でも誰なのかわからなくて、ただ手を引かれるままその誰かの後をついて歩く。

けど、私もそこで笑っていた。
無邪気な笑顔、声。

ああ、と私は目を細め、その手をこちらに引き寄せた。

小さな体をふわりと腕に抱けば、その誰かは驚いたように目をぱちくりさせて、でもすぐに笑顔になる。
私は白い手で褐色の肌をするりと撫でた。


ああ―――君はまるで、静かに闇を照らす太陽のようだ。






















「……………」



薄暗い部屋、石の天井。
それが、私が目覚めて最初に見た景色だった。

まったく見覚えがない。



「…あれ?」



ぱち、と一度瞳を瞬かせる。
おかしいな、私は白さ際立つ清潔な保健室にいたはずだ。
断じてこんな薄暗い場所に記憶はない。

がば、と勢いよく体を起こした。
体にかけられていたらしい薄い布がぱさりと膝の上に捲れる。
視線をめぐらせれば、どこかの部屋らしかった。
石造りの壁・天井に、ガラスのない大きな窓。部屋の隅には観葉植物のようなものがおかれている。

…ちょっと何が起こったのか理解できませんねー。何?何なのこの場所?なんかどことなく異国風で豪華なつくりしてるけど、全然わけが分かりません!何で私はこんなところにいるのですか誰か説明プリーズ!!!



「ぁ、」

「!」



その時、小さな声が聞こえた。
ハッとして振り向くと、そこには一人の少女が部屋の入り口(?)に立ってこちらを見つめていた。
黒い髪に、翡翠のような綺麗な目。年のころはまだ10歳程度…だろうか。
簡単なつくりの白っぽいワンピースを着て、小さな両手で桶のようなものを抱えている。
彼女は私と眼が合うと、華奢な肩を少し跳ねさせた。



「あ、その…お目覚めに、なられたです…ね」

「……君は?」

「わ、たしは…トト、です」

「……トト?」



こくり、と少女が頷いた。



「お客様、お目覚め…………なられたから、ファラオにご報告、してきます。待ってて、ください…!」

「え?あ、ちょっと!」



私の制止の声も聞かず、少女―――トトはぱっと身を翻し、走り去ってしまう。

…………て、いうか。
今あの子、なんつった……?




………………ファラオ?










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