ロリーダーがゆく! | ナノ



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―――――彼女が、この支部初の新型候補だ。



そう言ったヨハネス・シックザール支部長と共に訓練場に入ってきた者を見て、雨宮ツバキは言葉を失った。

キョロキョロと周りを見回す《彼女》に、ヨハネスはそっと手元のマイクを握ると、「その台の前に立ちたまえ」と指示をしていく。



《ようこそ、お嬢さん、人類最後の砦、フェンリル極東支部へ》



「っ…支部、長」

「なんだね、ツバキくん」

「彼女が、新型候補…?」

「その通りだ」



何か問題でも?

カチリ、と一度マイクのスイッチを切り、ヨハネスはツバキを振り返る。



「問題……?何を言っているんですか、支部長。彼女は!」



―――――まだ、幼い子供じゃないか。



さらさらと流れる藤色の髪。
背丈はここから見下ろしてもわかるほど、小さい。推測するに、10前後…と、いったところだろう。

ツバキの言いたいことは、ヨハネスもわかっているのだろう。あんな子供を戦わせる気か、と。大人ですら命の保証のされない戦場に、まだ護られるべき子供を…!

しかし彼は、背中で手を組んだまま平然とした様子で口を開いた。



「ソーマも入隊は11歳だった。珍しくはあるだろうが、可笑しくはないだろう」

「あの子はソーマとは違います!それとも、あの子も何か特別な訓練を受けているのですか?」

「いや、彼女は至って普通の一般人から選出した」

「―――――――っ!」

「まぁ、確かに当時のソーマよりは若い。…何せ、彼女はまだ10歳ということだからね」



絶句した。

一般人?一般人の、まだ年端もいかぬ10歳の少女を、よりにもよってこの地球上で最も危険な激戦区に放り込むのか?
激痛と共に癒着された腕輪を物珍しそうにまじまじと見つめる少女を分厚いガラスの奥から見下ろし、ツバキは唇を噛んだ。

無事、適合したらしい。



「…だが、素質は十分にある」



まるでその言葉が聞こえたかのように、今まで神機を弄っていた少女が、ふとこちらを見上げる。淡い藤色の髪が揺れ、大きな碧色の瞳がぱちりと瞬いた。

こんなに離れているのに、視線が合った気がして。
胸に渦巻く重い感情から逃げるように、ツバキはそっと少女から視線を外した。



「―――――――……」



うっそりと笑みを浮かべたヨハネス・シックザールの真意を、察せぬまま。



《おめでとう。君がこの支部初の、新型ゴッドイーターだ》