しあわせはきみのとなりで
*社会人ヒロイン
君の笑顔が何よりも宝物
「…ただいま」
バタンと少し乱暴に閉めた後に、きちんと揃えられたスニーカーに目が留まる。あ、と声が出るまもなくパタパタと小気味良い音を響かせてひょこりと笑顔が現れた。
「凛くん来てたの?」
こくりと頷く彼に自然と私の口元も緩む。薄い緑色のエプロンは誕生日に私がプレゼントしたものだ。
「お家のことは大丈夫なの?」
少し皺になったスーツをハンガーにかけつつ聞けば、曖昧な笑顔がそこにあって、あぁこれはいつもの。
「妹ちゃんが任せてって?」
「………」
きっと、ナマエさんと一緒に!と妹ちゃんが気を使ってくれたのだろう。ここ最近お互いの時間が合わず会えていなかったから…。そういう所もきっと妹ちゃんにはわかってしまったのだろう。あの年齢で鋭すぎ、と思わず苦笑してしまう。
「わぁ美味しそう!凛くんもご飯まだだよね?」
テーブルにはたくさんの出来立ての料理。鼻をくすぐる匂いに思わずお腹も喜びの声をあげた。
「…っふ」
「もうっ私のお腹は正直者ね」
そう茶化して二人で顔見合わせ声をあげて笑いあう。他愛もないこんな瞬間がたまらなく愛しい。それによって刺々しく荒れた心が解かれていく。ありがとう、私は両手を合わせつつ小さく呟いた。
「片付けは私がするからね」
腕まくりをして食器を片付け始めると自分も、と動き出そうとする凛くんを制してソファへ座らせる。なおも動き出そうとする肩を押さえつけてにっこりと無言の圧力をかければ困ったように眉が動かされたけど、こうなった私が意見を曲げないことをきっと彼は嫌というほど知っている。だから、溜息がひとつこぼれ肩から力が抜けたのを確認して私は洗い場へ戻った。
「凛くん、コーヒー淹れたよ」
ありがとう、そうゆっくりと微笑まれる。ふわりと心に広がるそれは、きっと凛くんじゃなきゃダメな証。どうしたしまして、と微笑み返し隣に腰掛ける。
お互いテレビはあまり好きじゃないから、いつもの洋楽が私たちの間に流れる。コクリと喉を通るコーヒーと触れ合った肩から伝わる体温に自然と瞼がおりる。
「…凛くん?」
ナマエさん、
そろりと髪を撫でる仕草がそのまま膝へと導かれる。こてんと凛くんを膝から見上げる形となってしまって私は思わず固まってしまう。
「…これは、逆ではないですか凛くん」
「………」
ふるふると首を横にふり、また優しく微笑まれてしまう。その表情に私が弱いことを彼は知っているのかな?ぐっと声を詰まらせた私の頭を先程と同じように撫でだした。
「凛くん…」
そろりと頬に手を伸ばし触れる。それを合図に近づくそれに私も瞳を閉じる。
【しあわせはきみのとなりで】
だいすき、
唇を合わせる前にこぼれた魔法の言葉を
どちらからともなく飲み込んで
今日もこの幸せを私は享受するのだ