distance
「はぁ〜…まだ3日」
ぼふっとベッドへ身体を沈めながら握り締めるのは小さな携帯。カチリとそれに当たったのはお揃いでつけたストラップ。表示される時刻は23:17。
「もう、練習は……さすがに終わってるよね」
でもミーティングとかお風呂とか合宿だからきっと色々とある。と悩んでもう3日。されど3日…黒子くんの声を聞かない3日間は私にとってこんなにも辛いものだなんて思いもしなかった。
ぎゅっと近くにあったぬいぐるみを抱き寄せてみても、この胸にあいたものは埋まるはずもなく。ただいたずらに時間だけが過ぎていく。
「…寝なきゃ、でも、」
せめて声だけでも、なんて考えてしまって…結局ベッドの上をごろごろと転がるだけで。
付き合う前は学校で見かけれられれば良かったのに。どんどんど欲深くなっていく私の気持ちが彼の負担にならないようにと閉じ込めてきたけど…。
「……会いたい、よ」
一筋、頬を流れる雫を拭おうと携帯から手を離した瞬間に聞きなれた大好きなメロディが耳に飛び込んできた。慌てて携帯を開く。
「くろこ、くん…!」
まさか、と疑って頬を抓ればじわりと痛みを感じて。夢じゃないと湧き上がる感情を抑えつつ震える指先で通話ボタンを押せば、がやがやと人の話し声が聞こえる中、すっと透き通るいつもの声が聞こえた。
「ナマエさん?もう寝ていましたか?」
「うっううん、大丈夫!起きてたよ…」
零れ落ちる涙をぐいぐいと袖で拭いつつそう返事をすれば、はっと向こうで小さく息を呑む音が聞こえた。
「……何故、泣いているんですか?」
「―べっ別に泣いてなんて―」
「―ナマエさん、」
ふわり、そう名前呼ぶ声があまりにも優しくて、いつものあのあたたかな笑顔が頭を過ぎってしまった…その瞬間、塞き止めていたはずの涙がとめどなくあふれ出してしまった。
ナマエさん、大丈夫ですよ…ナマエさん
しばらく泣き止むまでずっと私の名前を呼んでくれた。それが余計に涙が止まらなくさせるなんて、きっと彼は気づいていない。
「…くろ、こくん」
「はい、ナマエさん」
「がっ、しゅくから帰った、ら…」
「会いたいです。ナマエさんに一番に会いに行きます、だから」
―もう、泣かないでください。ボクがその涙を拭えないことが今、とても悔しいです―
そうポツリともらした声が鼓膜の奥に響いて落ちていく。
「…やくそく」
「はい。僕とナマエさんの初めての約束ですね」
―ずっと言おうか迷ってましたが、泣いているナマエさんに我慢できませんでした、と少し照れくさそうに言う彼に私もと答え小さく笑いあう。そして、ゆっくりと電話越しに指切りをした。
「おやすみなさい、ナマエさん」
「おやすみ、黒子くん……大好きだよ」
【distance】
「おーい、黒子が戻ってきたぞー…って黒子?!」
「ちょっお前なんで真っ赤になってんだ?」
「風呂でのぼせたか?」
「何時間前だっつの」
「…な、んでもありません」
君に一番に伝えますから
ボクもナマエさんが大好きです、と