夢2 | ナノ


  call my











「ナマエさん、」
「んーどうしたの黒子くん」
「……どうして、呼んでくれないんですか?」
「…え、」

読んでいた本から顔をあげればそこにはいつになく真剣な表情。ぐっと近寄った体温に恥ずかしくなって少しだけ移動すれば、その分また縮まる距離。

「黒子くん、どうし―」
「……ボクの名前を呼んでくれないのは何故ですか?」
「えっ何言って―黒子くんって、」
「いいえ。‘テツヤ’と呼んではくれませんよね」

ぎゅっと握られた両手が微かに震えているのが伝わってくる。揺れる水色の瞳には狼狽する私が映っている。息を呑み声を発することができない私に、さらに彼の瞳は弱く細められ伏せられてしまう。





「…ボクが頼りない、ですか」
「そんなっそんなことじゃ、」
「ならっ!どうして…っ」

―ナマエさん、
彼が私に対してここまで荒々しい態度はとることは初めてで…驚きのあまり泣きそうになる。けれど、それ以上に悲しそうな彼を見るのに耐え切れなくて、ぎゅっと握った両手をほどいて背中へと回した。



「……ごめん」
「ナマエさん」
「ごめん、ね…」

泣かせるつもりはなかったんですが、と黒子くんが私の背中をポンポンと軽く叩いてくれる。
あぁ、泣いているのか
気付いた時にはほろりと流れ落ちる涙を止める事もできず成すがまま、彼の肩口に顔を埋めることしか出来なかった。





「……私は、その…もう、いい大人で」
「はい」
「…黒子くんは、高校生で」
「はい」
「…こんな、おばさんよりきっと素敵な子が―」



一緒に歩いても姉弟にしか見えなくて
どんどん輝きを増す黒子くんの傍にいるのが果たして自分でいいのか、彼の将来に私が邪魔じゃないかって不安になっていた。だから、一つの抑止として名前は呼ばない、そう決めていた。そうすれば別れたときの痛みも半減する、なんてずるい逃げ道を作った
けれど、



「現れるわけありません!ボクが好きになるのはナマエさんだけです」



先程より強く抱きしめられ黒子くんの声が身体中に響いていく。触れ合うとこから彼の熱い熱が伝ってくる。
どくり
心臓が一際大きな音を立てる。



「ありふれた言い方かもしれません。ナマエさんと出会えたことはキセキだと思っています」
「………うん」
「ナマエさんを好きになって、好きになってもらえて、付き合えて…とても幸せです」
「……う、ん」
「後悔なんてありません。ボクの未来にナマエさんが隣に居ないなんて考えられません」
「…くろ、こくっ」



「だから、ボクをちゃんと呼んで…ください」



怖がらなくていい
不安なんてとけていく
彼が広げてくれた腕の中へ飛び込んでしまえばいい

ふと身体が離れ見つめ合う。水色の瞳にはにかんだ私が映る。近づく唇にたくさんの想いを込めて、ゆっくりと瞳を閉じた。





「――テツ、ヤっ」
「はい、ナマエさん」

「だい、すきっ」
「ボクも大好きです」










【call my name】

テツヤ
これからはたくさん呼ぶね
誰よりも愛しい名前を何回でも








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