あの星に
暦の上は未だ秋を示す筈なのに吐き出した息は白く夜空に溶けていく。動きにくい両手を擦り合せながらゆっくりとベランダへと通じる窓辺に腰掛けて数十分。ガチャリと音がしたのと同時にふわりと肩にぬくりもりが広がる。
「何してんだよ」
「星を見ようと思って」
「…ったくそんな薄着で。見るならちゃんと暖かくしろ、」
ナマエ、と言いながらも肩にかけられたそれは暖かく、すとんと当たり前のように私の隣に腰掛ける宮地さん。相変わらず素直じゃないよね、なんてその後が怖いから言わないけど。
「だって、ほら。綺麗でしょ?」
二人で見上げた夜空には視界いっぱいに入りきらないほど数多くの星たちが煌いていて。本当に手が届きそうなほど近くに光る星たち。
「ねぇ、宮地さん。知ってます?」
「何をだ?」
「流れ星に願いを三回言うと叶うって」
言いながら震えだした肩にまた小さな小言が飛んできて。でも反対の優しい温もりが背中いっぱいに広がる。
「知ってるけど。今日流星群でも来んのか?」
「うーん、たぶん来ない?かな。」
「なら何でこんなに寒いのに…」
それはご尤もと私が思わず笑っていると不機嫌極まりない声が降ってくる。
「で、何がしたいんだよ。」
「もし、流れ星が流れたら宮地さんお願い事しません?」
「何を突然―」
胸の前に組まれていた手を重ねればぴくりと頬が動く。けれど振り払われることはないって知ってる。そっと包み込まれように重なれば、ぎゅっとさらに抱き込まれる。
「私は、ずっとずーと宮地さんと一緒に居れますようにって」
そう、お願いしますから、ね?
そっと伺えば複雑な表情をした宮地さんの瞳とぶつかる。
―どうして、そんな瞳で私を見つめているの?
それを問う前に私の身体は蜂蜜色に支配される。と同時に耳を掠めるいつもより深い声。
「当ったり前だろーが。ったくそんなの…俺がナマエ離すわけじゃねぇだろうが」
この阿呆が、
その言葉とは裏腹な頭を撫でる手つきは優しくて。じんわりと広がった愛しさを言葉にできなくて。ただ、ただ宮地さんの胸に顔を埋めた。
ねぇ、宮地さん
願い事をしようよ
きっと、きっと、叶うから
【あの星に誓うよ、君と共に歩む未来を】
どうかこの時間が永遠でありますように