夢2 | ナノ


  milk tea



*社会人ヒロイン





カランカラン。
小気味良い音とは正反対の心模様の私は慣れた足取りで一番奥のソファ席を目指す。どっしりとしたブラウンのそこに身を沈めれば、言いようのない安心感に包まれる。ほぉ、と一息ついて鞄から書類を取り出す。けれど、数分もしないうちにそれをばっと机の端に追いやり突っ伏す。

「…うー、んー…」

やらなきゃいけないことと、できることは違うわけで。でも、そんな言い訳が通るほど甘くなくて。ぐにゃりと歪んだ数字ばかりで頭がパンクしそう。



「おー、お疲れさん」

カチャリ。
耳に届く少し高めの声と金属音。突っ伏していた視線を少しあげればそこにはふわりと鼻をくすぐる良い香り。ふわりと気持ちがほぐれていく感触に自然と頬も緩むようで。

「いつも無理すんなって言ってんだろ」

ぽんぽんと撫でられた私はまた机に突っ伏してしまう。かたかたと揺れる肩にきっと彼は気づいてる。それでも、変らないその落ち着いた声で私を救い上げてくれる。

「冷めないうちに飲めよ、ナマエ」

いつも間にか目の前のソファに座ってにかりと白い歯を見せて笑う。少し着崩したシャツの間から揺れるネクタイが次第にぼやける。上体をゆっくりと起こし、震える瞼に力を込めカップを手に取り口付ける。
ゆらり。
水面に映る情けない自分の顔にぽつり堪え切れなかった雫が落ちる。

「……きよっ、し」
「あぁ?」
「――おい、しい…」
「ったりめぇだろうが。誰に言ってんだよ」

―轢くぞ、とお決まりの物騒な台詞も照れ隠しだって知ってるから。不器用な彼の優しさにいつも甘えてしまう。ありがとう、と小さく呟けば満足したかのようにひとつ頷いて彼はカウンターへと戻っていく。さらりと私に魔法の言葉を残して。





「―明日、噴水前に10時。遅れんなよ」









【milk tea】

ぽろりと頬を伝う雫を振り切り私はゆっくりと甘い甘いミルクティに口をつけた。
きっと、明日の心は晴れ模様。








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