黒子-別ver
後半のみ別ver
お風呂上りにぼんやりとタオルで頭をふいていると、鈍い音を立ててそれが揺れた。そっと無機質なそれに視線を投げれば新着メッセージの文字。ゆっくりと指先で辿れば思わず口元が緩む。
[…今から出て来れないかな?]
「今、から?まさか―」
そのまさかを実行する彼女の行動力にはときに羨ましくもあり、それ以上に心配になってしまう。
「ナマエさんっ!こんな時間に何を」
「とりっくおあとりーと!」
玄関を急いで出れば、パーンという破裂音と紙吹雪。ひらひらと舞うそれに目がいくはずもなく、驚いて立ち尽くしていれば少し気落ちした声が届く。
「…やりすぎちゃった?」
「いえ、ただ驚いただけですよ」
そうやんわりとさがってしまった頬に手を添えれば、少しだけ熱を持つ。その姿に自分の胸がとくりと跳ねる。そしてその熱と鼓動のままそっと胸に引き寄せる
「テっテツヤ、くん?」
「ナマエさん、ボクお菓子持っていません」
「あ、そうなの?じゃあ別に―」
「なので悪戯してください?」
普段使わない唇の端をゆっくりとあげて言葉を紡げば、程とは比べ物にならないくらい触れた体温が上昇するのがわかる。あたふたと首を左右に振りボクの視線から逃れようとする姿も、それが敵わないとわかり押し黙るまでボクは唇の端が下がることはなかった。
「…ナマエさん?」
やりすぎたでしょうか、とボクより少しだけ小さな旋毛を眺める。そっと、その表情を伺おうとすれば、それよりも早く合わさる視線。
「テ、テツヤくんなんか―」
「ナマエさ―…」
「っだ、だいすきなんだから!」
パタパタと走り去る後姿をボクは見送ることしか出来なかった。初めて彼女から触れた唇の熱に浮かされていたから。
「…こんな可愛い悪戯なら、いつでも大歓迎なんですが」
と言うより悪戯ではないですけど、と思いつつ、明日のナマエさんを想像してボクは小さく笑った。