夢2 | ナノ


  04






気づいていないわけじゃなかった、と言えば言い訳だろうか。
それでも俺は毎日願っていたのだよ。
いつか…彼女がこの白い部屋から出られることを。










約束の日曜日。少し肌寒くなくなってきており、俺は吐き出した息に手を合わせた。

「真ちゃん、今日はここまでだっけ?」
「あぁ。ここで良いのだよ」

いつものように、ゆっくりとリアカーを降りれば、高尾はお決まりのセリフを言う。

「なぁ真ちゃん紹介してくれよな〜そのお姫さん!」
「高尾と会うと馬鹿が移る。治るものも治らないのだよ」
「相変わらず真ちゃんそればっかりなー」

独占欲の強いことで、と笑うあいつをとりあえず一発殴って、俺はそんなものではないのだよ、と言っていつもの道を歩き出した。





「ナマエ、来たのだよ」

ガラリ。
いつもの白い部屋へ足を踏み入れれば、そこにはいつもと変わらない風景。ナマエが窓の外を見て、歌っている。ただ、そのいつもの風景がどうしようもなく愛しいと最近気がついた。けれど、この感情に名前をつけてはいけないよな気がして…俺はただ混沌ととするだけだった。

「真ちゃん、お疲れ様」
「あぁ。ありがとうなのだよ」

いつもの笑顔に先程までの混沌は姿を消し、心がじわりと温かくなるのがわかった。ほっと一息をついていつもの椅子へ腰を下ろせば、待ってましたとばかりに、ナマエごどりとベッドの下へ手を伸ばす。

「ナマエ、何をして―」

俺は二の句が告げなくなった。いや、言えなくなった方が正しい。それは、ばさりと俺の顔を多く隠すほどの花が差し出されたからだ。

「真ちゃん、今日私ね……誕生日なの」

びっくりしたー?
そう笑い出したナマエに俺は目が点になった。
今日が、私の、誕生日?

「…誕生日だと? なぜそれを早く言わなかったのだよ!」
「えっ驚かそうと思って」
「それならそれでちゃんとプレゼントを―」
「いいの、いいの。私ね、欲しいプレゼントがあるからそれ頂戴?」

差し出されていた花束はそのまま俺の手に握らされ、ナマエの体温の低い手がそれに覆いかぶさった。そして、そのままぎゅっと俺の両手を握りしめてくる。

「えー本日をもちまして、私はめでたく十八になりました」
「は、えっ…?」
「あれ?言ってなかった?」
「聞いてなかったのだよ…」

「驚き尽くしだねー真ちゃん」
「そっそれより欲しいものは―」

驚きとため息で眉間に皺が寄るのが自分でもわかった。しかし、またそれを上回る言葉が耳に入り込んできた。

「…真ちゃんがバスケを楽しむことだよ!」
「……―それ、は」

「真ちゃんがバスケを楽しんで、そして勝って!それで私に優勝旗もたせてよ」

ね?と笑うナマエは今まで見たことがない表情の微笑を浮かべていた。それは、今までで一番儚くて…一番、消えてしまいそうだと、このままでは消えてしまうと…消えて欲しくないと…思うよりも早く身体は動いていた。花束ごとナマエを引き寄せて、その薄く細い背中へと腕を回す。

「…それは当たり前なのだよ。きっと次は勝って…ナマエに見せてやるのだよ」
「……うん、楽しみに待ってるねっ」

真ちゃん、ありがとう。
耳元で小さく呟かれた声が何よりも嬉しくて。俺はただ、ただ…ナマエを抱きしめる腕を強めた。








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