夢2 | ナノ


  この手の先で







‘新着メール1件’
小さく振動をつたえたそれを開けばアイコンが点滅している。そろりと送信者を確認して思わず頬が緩む。
‘今日はワックスがけだけだから一緒に帰れるっすよ’
女子顔負けのかわいい顔文字とともに送られてきたメールに思わず机の下に隠した携帯を握り締めて笑ってしまった。

「…あっ、」

しまったと思わず口を急いで閉じたけど、がやがやとした教室で私の声はかき消されたようでほっと息をつく。弾む心で震える指先に力を込めて返信を作成した。





「お待たせーっす!」
「大丈夫だよ。ごめんね、すぐ片付けるね」

ガラリと教室のドアからのぞく黄色の髪を揺らす彼に、ゆっくりと手を振りつつ、私は机の教科書たちをしまった。そして急ぎ足でドアに向かえば、にぱっと輝く笑顔と出逢う。

「ナマエっち!」
「おまたせ黄瀬くん。帰ろう?」

うん!と元気の良い返事と勢い良く出された左手に自分の右手を重ねる。じわりと伝わってくる体温に鼓動が早くなる。同時に胸に愛しさが広がって、何だか少しだけ泣きたくなる。

ねぇ、伝わってる?
私、とっても幸せだよ?





「今日はこっち!」
「えっえぇ? だってこっちは―」
「早く帰れるしデートっすよ」

にっこり微笑まれて引きずられるように電車に乗り込めば、満足したような様子でストンと座席に座ってしまう。つられて腰を下ろし流れ行く景色は見慣れないものばかりで。不安げに隣を見れば、優しい瞳が私を見下ろしていた。

「ナマエっちも絶対気に入るっすよ」
「どういうこと…?」
「今はまだ秘密っす」

唇に当てられた指先がひんやりとして、私はそれ以上言葉を続けることが出来なかった。
ガタンゴトン。揺れ続ける電車に運ばれてどれくらい経っただろう。繋がれた右手の先には黄瀬くんがわくわくと見えていきそうなほど楽しそで。それを見て私も段々と楽しみになってきたところに。

‘〜〜駅、〜〜駅’

「ナマエっち!ここっすよ」
「ここ、って…」
「そう……海ーーーっ!」

行くっすよ〜と駆け出していく黄瀬くんに多少呆れつつ、波打ち際に真っ直ぐ向かう彼を追いかけた。





「本当に入るの?」
「まさか。足だけっすよ」

ほら、ナマエっちも!と流されるまま靴下と靴を脱ぎ、そっと波へ足をつければ思ったよりも冷たくなくて。驚いて立ちすくむ私に心配そうに黄瀬くんが顔をのぞかせた。

「大丈夫、っすか…?」
「うん。あんまり冷たくないんだね」
「今年はもう海開きしたとこもあるみたいっすよ」
「へぇ〜そうなんだ」

ぱしゃりと波を蹴りながら歩けば、前を歩いていた黄瀬くんが振り向いて腕を広げていた。

「ナマエっち!」
「えと、その…それは」
「どーんと来て欲しいっす」
「ちょっと、それは……その」

「大丈夫っすよ!誰もいないっすから」

ね、と微笑む姿に私が弱いことをきっと黄瀬くんは気づいてる。けれど、それをわかりつつものってしまう私も私だけど。

「はいっ!」
「やった!ナマエっちげっとー」
「こらこら」

苦しいほど抱き寄せられた胸元から顔をあげれば、眩しいくらいの笑顔がそこにあって。私は息をするのも忘れて見惚れてしまった。

「…ナマエ、」
「黄瀬、くん…?」

「大好きっすよ。大好き、だから―」

離れていかないで、
震える瞳と腕が優しく私を包み込む。

あぁ、どうしてだろう
あぁ、どうして、こんなにも君を想ってることが伝わらないのか

もどかしくて、握り締めた拳を振りほどき、その大きな背に腕を伸ばす。どうか届けて、この歯痒いこの愛しさを。

「――私も黄瀬くんが大好きだよっ」










【この手の先で君が微笑むのなら】

何度だってこの想いを届けるから
だから、どうか泣かないで愛しい人








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