水戸部
*社会人ヒロイン
家に帰るとそこには猫耳をつけた彼氏が正座していました。
なぜ?
「えっ私疲れてるのかな、」
目を擦りながら今日一日を振り替える。
朝はいつも通り、ちょっとだけ慌てたけどちゃんと会社に間に合ったし。それから、急いで仕事を片付け定時で上がれた私は少し軽い身体を弾ませ家路へ急いだ。なぜなら、今日は凛くんと夕飯を一緒に作る約束があったからだ。
ふぅ、とはやる気持ちを落ち着かせるために深呼吸。自分の家なのにと苦笑しつつドアをあければあれだ。何がどうしてこうなったのか…。
「凛くん、とりあえずね?玄関先だしソファ行こう?」
項垂れたままの凛くんを促し部屋のソファへ移動する。一歩部屋へ入った瞬間、感じる違和感。これは―
「お、かし?」
テーブルの上には大量のお菓子。既製品やら手作りやら、しかもなにやら開けかけの袋も見受けられる。
「こんなにどうしたの?手作りは凛くんだと思うけど、」
部活の皆と食べた残りとか?とお菓子を漁っていると、ふと左手に優しい温もりと落ち着いた声が耳に届く。
―今日は、ハロウィンで
「ハロウィン?あぁ!」
言われるまで忘れていたけど10月31日か。だからこんなにもらったのね〜と納得しかけてはたと気付く。え、でもそれじゃあ―
「お菓子こんなに持ってたけど凛くん悪戯されたってこと?」
未だにつけているそれを指しながら問えばうっと困ったような表情。まぁそこは当たりみたいだけど、それをここまで付けてる理由にはならない。うーん、と唸りながら部屋着へと着替えるため移動する。箪笥から洋服を取り出しつつ考えて、ありえないけどありえるかもしれない結果にたどり着いて噴出した。本当だったら、自惚れちゃうんだけどな。
「凛くんお待たせ」
リビングに戻ればいつも通りエプロンをまとい台所で準備する姿が目に入る。でも、やっぱりその頭には黒い耳がついたまま。そっと近づき、凛くんに先程の推理を投げかけてみた。
「もしかしてなんだけど、コガくんにこれ渡されて付けてれば…私が喜ぶって言われた、とか?」
ガタッと勢い良く凛くんが動き冷蔵庫にぶつかってしまった。包丁を持っていないことを確認したとはいえ、まさかそっちに動くとは…。苦笑しつつ、打ったところを撫でれば少し恥ずかしそうな表情とぶつかる。
「うん、可愛いよ」
そう言いつつ黒耳ごと撫でれば更に頬は赤くなる。けれど、その表情は満更でもないようで私も嬉しくなる。
「ありがと、凛くん。だから今度は凛くんの番だよ?」
何が?と不思議そうな視線を受けそっと耳元で囁く。
「私、お菓子もってないから、いっぱい悪戯していいよ?」
玄関の時よりも数段に赤くなった頬を精一杯隠そうとする凛くんに、とどめのキスを送った。