夢2 | ナノ


  03







季節が移ろうのは早く、あの出会いから俺は幾度となく病院へ通った。部活帰りの少しの時間や休日。新緑が終わりを告げ、厳しい夏が終えても。そして、俺が高校へと進学してからも、ナマエとの時間は変わることはなかった。



いつもの部活の帰り道。高尾の引くリアカーを交差点で止めさせる。

「高尾、今日はここで良いのだよ」
「は?真ちゃん家まで半分も来てねぇけど…」
「寄るところがあるのだよ」

高尾はニヤリと嫌な笑みを浮かべたので俺は追求される前にそそくさと歩き出していた。後ろで真ちゃん明日覚悟しろよー!と高尾が叫んでいることは無視して。





「ナマエ、来たのだよ」

ガラリ。
通い慣れたそこの部屋にはいつもの場所にいつもの彼女。ベッドで半身を起こし今日もナマエは歌っていた。

「真ちゃん、お疲れ様」

ふわりとナマエの笑顔で心が温かくなるのがわかる。この心地よさは言葉に言い表せないほどに、俺を癒してまた明日からの力となっている。恥ずかしくて本人には言えないが…それについて、俺はとても、感謝してる。

「真ちゃんどうしたの?」
「いや、別に…たいした事ではないのだよ」

誤魔化すように眼鏡をあげれば、変な真ちゃんっと笑う姿が視界いっぱいに映る。その明るく優しい笑い声に俺もつられて頬を緩めた。

あぁ、そうだ。
ずっと笑っていて欲しい。
ただそれを強く願った瞬間でもあった。





それは、その日の帰りのことだった。見たことがないくらい真剣な瞳をしてナマエは問いかけてきた。

「ねぇ…真ちゃん。次の日曜って部活、あるよね?」
「あぁ。だが夕方には終わるが…何か検査でもあるのか?」

ナマエはこの頃、頻繁に検査を受けており、授業中に
(これから検査入ったから今日はお話できないや><ごめん!)
などとメールが入ってることは珍しくなかった。だから、また検査か何かで会えないのだろうかと、少し心が締め付けられているところへ思わぬ言葉が飛び込んできた。

「ううん、絶対ね、会いたいの、真ちゃんに」

会いに行けたら一番なんだけど…ごめん我が儘言って。そう言って俯いたナマエに俺は先ほどより強く心が締め付けられる音を聞いた気がした。いつもの笑顔ではなく初めて見る真剣な表情と、無理やり作ったような笑顔は俺を動かすには十分だった。

「…大丈夫なのだよ。練習試合後にここに来る」

だから、そのような顔は止せ。
俯いたナマエの頭をゆっくりと撫でれば、ゆっくりと表情が伺える。それは、いつも笑顔のナマエだった。俺はたまらなく心臓が飛び跳ねて抱きしめたくなった。

(俺は、今、何をしよう、としたのだよ)

その衝動に驚きつつもブレーキをかけ、俺はナマエと指切りの約束をした。

「じゃあ、真ちゃん。日曜ねっ絶対だよ!」
「わかっているのだよ。そんなに大きな声で叫ぶな」
「だって真ちゃんの反応鈍いんだもん」
「先程、指切りもしただろう」
「来なかったら針千本じゃすまさないからね!」
「あぁ。必ず会いに来るのだよ」

では、またなと背を向ければ、いつもように明るく真ちゃんまたねと声がかかる。俺はその時、振り向くべきだったのだ。彼女が、ナマエが泣きそうな顔で俺を見つめていたと知ることができたはずなのに…。








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