紫原
「ねーねーまだー?」
「あと少しだよ、あっくん」
言いながらその大きな背中を私の背中にぴたりと寄せてくる。正直かなり重い。けれど、それを言えば更に重くしてくるか拗ねるかなので、ぐっと言葉を飲み込み集中力を切らさないように足先に色をのせていく。深い紫色にしているの、きっと気づいてないんだろうな。
「よーし、出来た!」
自分でも中々の出来だと思いつつゆっくりと重い背中を押し上げる。そうすれば、お菓子の手は止めはしないけれどあっくんが背中から離れる。
「やっとー?もうオレ超待ったし〜」
「はいはい。ごめんね、あっくん」
ほら、これも食べていいからと新作のチョコを手渡せば先程の不機嫌顔は一瞬で笑顔にかわる。
「ナマエちん、ありがとー」
ほわりと私の袖を引きつつ笑うあっくんに絆されてしまう。この笑顔の前には何をしたって勝てない。これも、きっと彼は気づいてないんだろう。
お菓子に夢中な間に片付けでもしようと膝を立てた瞬間、ぐっと足首が掴まれて危うく床とキスをしそうになる。その原因を睨んでもいまひとつ効果がないようだけど。
「…うまそう」
「へっ何が―きゃっ」
「ナマエちん、うまそう〜」
足首を掴んでいた大きな手は私の爪先へ伸び、そのまま彼の大きな口元に寄せられる。止めるまもなくそれはぺろりと生温いそれに触れた。
「ちょっとあっくん!何やって―」
「ん?うまそうだから」
「いやいや、私お菓子じゃないし」
「んー、でもナマエちん甘いし」
「―甘い?」
「うん、どこも甘くてうまいー」
そう言って更に私の指先を口に含み笑うあっくん。その表情が頭の中に警鐘を鳴らす。早く逃げないとと思っても強く掴まれた足はびくともしない。
「だから、いただきまーす」
また先程は違う笑顔をその顔に貼り付けて彼はゆっくりと私の息を止めた。