ひだまりの旋律
*片想い
テスト期間中は部活がない。それはこの秀徳高校も例外ではない。いつも部活で一緒に過せる時間が少ないからとても貴重だと私は思っている。けれど大抵その時間はテスト勉強にあてられる。
当たり前なのだよ、と少し眉間に皺を寄せたのを思い出し小さく笑うと訝しげな視線が寄越された。
「…ナマエ、何を笑っているのだよ」
「なーにも。それより真ちゃんっ早く!早く!」
「こらっ押すな」
ぐいぐいとその大きな背を押せば少し困った声が聞こえて私はまた小さく笑った。黒く大きなその前に座らせれば諦めたのか小さくこぼれた溜息。
「いつもごめんね?」
「別に…もう慣れたのだよ、」
ナマエの我儘にはな、とくしゃり顔を崩して小さく笑う真ちゃんを見るたび、心の中にあふれる好きがどんどん大きくなる。
ねぇ、幼馴染の特権っていつまで有効なんだろう?
こうして隣で笑いあうことはいつまで許されるのかな?
ずっと、考えているけれど答えは出せないまま…ずるずると高校まできてしまった。いつか真ちゃんの隣に居るのが自分以外の女の子の日が来るのだろう。それを考えるだけで胸が締め付けられて泣きそうになる。だけど、この関係を一歩進んだものにする勇気はなくて…そのいつかを恐れるばかりでこの生温い幼馴染を続けている私は…。
「…真ちゃん」
「何だ?」
ピアノから少し離れた場所に立つ私に真っ直ぐ視線をくれる。そんな真面目なところ、やっぱり好きだな。
「あの曲、弾いてよ」
「わかっているのだよ。ナマエの考えていることくらいな」
そう言って綺麗な指が奏で出したのは私が大好きなあの曲で。それは、どこまでも甘く優しい旋律は私を泣かすには十分で。
好きな気持ちが溢れて、溢れて止まらない
いつか、きっと真ちゃんの隣には居られなくなる。わかっているけど、この気持ちを消すにはまだ私は弱くて。この甘い旋律にいつまでも寄り添っていたい。真ちゃんの隣にいつまでも、居たいよ…。
「ナマエ…?」
「……真ちゃん、」
溢れてとまらない想いが身体を動かして、私は真ちゃんの背中から抱きついた。それに、はっと息を呑み固まった気配が伝わってくる。震えだす腕を自分でぎゅっと握れば、それに綺麗な指が添えられる。
「泣いているのか?」
「……泣いてない、よ」
君を想って、想いすぎて
ただ想いだけが止まらなくて
「…お前に泣かれるとどうしていいか、わからないのだよ」
ぎゅっと抱え込まれた胸元から、ふわりとお日様の匂いがして。その優しさが苦しいのだと言えず私はまたそれに甘えてしまう。
神様、もう少しだけ時間をください
彼を想うことで泣かないように
きっと、強くなるから
だから、どうか今だけは
この優しすぎる彼を独り占めさせてください