大魔王様と私とときどきブン太
†Case5:大魔王様と私とときどきブン太†
授業ってホントつまらない。
目の前を通る非力な浮遊霊と餓鬼を弾いて遊ぶ。
もちろん他人から見ると、私は意味もなくシャーペンを目の前で振り回す痛い子何だろう。
隣の仁王君からの視線が痛いのが何より証拠だ。
「名字、ここ答えろ」
いきなり私を指名する教師に心の中で悪態をつき、立ち上がる。
近くにいたいかにもがり勉です、って幽霊が親切にも答えを教えてくれた。
『えっと、(x-3a)(x-5a)です。』
「正解だ。座っていいぞ。」
かたり、と音をたてて座る。
ありがとう、とテレパシー出来るかな、何て考えながら念を篭めると、どういたしましてとの返事が。
私ってばテレパシー出来るんだ!
ていうかすごいいい人!!
にこりと微笑んだ幽霊さんは、また私達と同じように授業を聞きだした。
私達と違うのはやる気だろうか。
皆が授業を右から左に聞き流す中、真面目にノートを取っている。
††††††††††
『疲れたー!!』
「はいはい、お疲れ様」
おやつ抜きの授業とは何とも疲れることで。
昼休みになるや否や、エネルギー源となるお弁当を取り出す。
あやちゃんが私の隣に座りながら、ジュースを一本差し出し、にこりと笑った。
「名前の好きないちごミルク、今日は奢ってあげるわよ」
ピンク色をしたパックを受け取り、私はあやちゃんを見る。
おやつの代わりだろうそれが、今の私には光輝いて見えるよ。
『ありがとう、あやちゃん!!』
早速ストローをパックに刺してちゅーちゅーと中身を吸っていく。
うまっ!!
生き反るっす!!
拳を握りしめ、小さな幸せを噛み締めていると、突然教室がざわめき出した。
「名字 名前さんだよね?少し話しがあるんだ。放課後、テニス部に来てくれるよね?」
つかつかと私の目の前まで来て私を見下ろしてくる人物は確か、ブン太と同じ部活の部長さんだ。
神の子とかいうちょっと、いやかなり恥ずかしい異名を持つお方だ。
まあ、確かに天下のテニス部部長なだけあって、オーラが違うし、女子が騒ぐのも頷けるくらい整った顔立ちをしている。
『え、いや、何で』
「いいよね?」
『…はい』
しかし、何だろう。
言葉は疑問形なはずなのに、否定は許してはくれない。
皆、何故頬を赤く染める…?
この人明らか腹黒さんだよ!?
「ふふ、何か言った?」
『イエ……』
何故口に出してないのに分かる!?
あれか、読心術を心得ているのか……!?
彼は更に笑みを深めて、颯爽と教室を後にした。
††††††††††
彼が去った後の教室は何と言うか…、女子が怖かった。
「名前、幸村君とはどういう関係なの!?」
「名字さん、あなた丸井君と仁王君だけじゃなく、幸村君まで……!?」
ぎらぎらと目を光らせて質問攻め。
あの神の子さん、幸村君っていうのか。
…それよりファンクラブの女の子達も確かに怖いけど、何より怖いのはあやちゃんだ。
あやちゃんはうるさい女の子達にイライラしているのか、こめかみがぴくぴくと引き攣っている。
「ねぇ、何とかいいなさいよ!!」
幸村君ファンクラブ部長の女の子が私の机をばんっ、と叩き、私に詰め寄る。
隣でプチ、と何かが切れる音がしたと思い、恐る恐る隣のあやちゃんを見れば、それはもう般若の如く怖い顔をしたあやちゃんがいた。
「うるさい!あんたらねぇ、名前のこといじめないでくれない?第一、自分達が頑張っても話しかけられないからって、それを名前に押し付けるのはお門違いってやつなんじゃないの…?」
ぎろり、と睨みを利かせるあやちゃんは怖い…。
ファンクラブの女の子達はう、と言葉を詰まらせ、一歩後退りした。
『あやちゃん、いい過ぎだよ。幸村君(?)って人のことは放課後にならないと今まで全く関わってないからよく分からないけど、私にとってはいい話しじゃないと思うんだよね。……それに、私の恋愛対象はイケメン幽霊だから!』
@、幽霊は歳をとらない。
A、幽霊×人間=悲恋っぽい。
B、幽霊だから汗とか汚くなさそう。
完璧な理想の彼氏でしょ、と熱く語ると笑われた。
いやいや、こっちは真剣に話してるのに失礼でしょ。
あやちゃんは、はあ、と呆れたようにため息を吐いている。
「名字さんって変わってるよね。まあ、嘘つく人じゃないってことは知ってるし、信用するよ」
「てかさ、名前じゃ恋愛に発展しないでしょ。こんな性格だしさ」
「ああー…、確かに。あーあ、心配して損したー」
あ、あれ?
私、褒められてるの、けなされてるの?
「名前、あれは完璧けなされてるよ」
ですよねー…。
あやちゃんが微妙な表情を浮かべる私に同情の眼差しを向けてくる。
てか、気が付けばクラス中からそんな視線を感じる。
な、何だ。
私が痛い子だから恋愛できないって?
別にいいもん、私の対象は幽霊なんだから。
ちくちくちくちく…
『う、うわあぁああ!私を見るなあー!見ないでくれえーっ!!』
視線に耐え切れず、私は叫んだ。
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