親睦と最終警告


†Case24.親睦と最終警告




明るい光をくぐり、上手く着地をしようと足を伸ばす。


だけど、霊界と人間界の空間の歪みにバランスを崩してしまう。


そんな私の片腕を掴み、着地で膝をつくのを防いでくれたのは仁王くんだった。


『ありがとう、仁王くん』


彼にお礼を言い終えると同時に、べしゃっという音が聞こえ振り返る。


柳生くんは着地に成功したようだけど、ブン太は失敗したようだ。


「おかえり、名前、仁王、丸井、柳生」


『ただいま、幸村くん』


幸村くんの目を細めるような笑い方。


安心したように笑う彼に、私も安堵の息を吐き出した。


「仁王、詳しく聞かせてもらうよ。とりあえず部室に行こうか」


幸村くんのその言葉に、私達は部室に移動する。


空はまだ橙色になる前で、亀裂に飛び込んでからこちらでは数分しか経っていない事が分かる。


ああそれから、亀裂は私達を吐き出すと勝手に閉じてしまった。


勝手に、というのは語弊がある。


亀裂は勝手に閉じないからね。


じゃあ誰が、と聞かれれば恐らく大王様だと思う。


私は心の中でお礼を言うと、一番最後に幸村くんを追った。


††††††††††


「…つまり、その転校生が犯人ってことで間違いないね」


幸村くんがそう確認をとり、何故か柳くんにアイコンタクトをとる。


その様子に首を傾げていると、柳くんがいつも持ち歩いているマル秘ノートを取り出した。


「如月が穴にいる間にこちらでも調べたんだ。…紫音の旧苗字は名字というらしい。そして、血液型と誕生日は名字と一致。また、両親が離婚しており父親に引き取られている」


「…それ、マジかよぃ」


「ああ。間違いない」


柳くんの口から出た話しに私は、思わず黙ってしまう。


薄々、紫音が似ていることには気付いていた。


仁王くんにも、ブン太にも指摘されるくらいには私と紫音の顔立ちは似ていたから。


ただ、それが事実だと知ると、たくさんの疑問が浮かんでくる。


恐らく、亀裂を入れたのも紫音だ。


私と双子ならばそういう能力があっても不思議ではない。


だけど、何のために、何の目的があって?


仁王くんを霊界に落としたのは何故?


私と姉妹だと言うなら何故…、狂気めいた眼差しを送ってくるのか。


考えだしたらキリがない。


ぐるぐると廻る答えの出ない疑問に、頭が痛む。


何で、どうして、何の目的で…。


「名前」


膝の上で固く握っていた拳を、やんわりと解かれる。


掌には血が滲んでしまっていた。


『ブン、太…』


「自分の中に溜め込むな。俺が受け止めてやる。だから、そんな顔すんな」


ブン太の真っ直ぐな瞳を見ていると、少し落ち着いてきた。


私はしっかりと頷き、ブン太の手を握り返した。


††††††††††


少し重い空気が部室内を包む。


私はそれを払拭するように、強い意思の篭った声を出す。


『…つまり紫音は私の血縁者ということだよね』


「そうだ」


『なら、私は今後ここには一切来ません』


きっぱりと告げる。


テニス部の人達のことはきっと、私が巻き込んだんだ。


今ならはっきりとそう言う事が出来る。


紫音は私に親しい者しか狙っていない。


そして、私が関わっていない者も一切。


その証拠に亀裂は、テニス部に関係するところと、私の教室にしかなかった。


霊だってそうだ。


最近はテニス部関連のところにしか出なかった。


理由は分からないけれど、紫音は私の大切な人を狙ってる。


「…それは駄目だ」


考えを巡らせていたら、幸村くんの一言で遮断されてしまった。


『だけど、私が関わったのが原因なんだよ。だったら、』


「もう目は付けられたんだ。それに、君を俺達に深く関わらせる原因を作ったのは俺達だからね。今更君にだけ抱え込ませるつもりはないよ。ね、皆」


幸村くんがそう言って周りを見る。


††††††††††


誰も何も言葉を発さない。


そんな中、柳くんが口を開いた。


「俺は賛成だ。名字がいないと部活に支障が出る」


『…は?』


「お前はなんだかんだ言って、仕事熱心だったからな。穴が空くとかなり痛い」


まさか柳くんにそんなことを言われるとは思わなかった。


しかも、彼の微笑みは優しく限りなく甘い。


『…なにそれ、私のこと一番疑ってたでしょう?なのに、何で……』


口から零れた感情。


そんな私の言葉に柳くんは首を傾げた。


「俺は一度も名字のことを疑っていない」


『でも、仁王くんの時疑ってるって…』


「あれは状況だけを見れば、と言う話しだ。俺達は誰も初めから名字を疑ってなどいない。疑おうものなら、精市に精神攻撃を食らう。…ああ、赤也はお前が操られたって勘違いしてたな」


何だ、それ。


つまりは私のはやとちり?


それに気付いた私は、肩の力を抜いた。


知らぬ間に、力を入れすぎていたのだ。


「名前、君はテニス部に必要なんだ。分かるね?」


『…分かる。でも』


「でもはなし。それに、心配なら尚更俺達の傍にいた方が護れるだろ?」


傍にいて護れ、ってことか。


私は幸村くんの言葉に頷いた、と同時。


「ふふ、親睦を深めてるところ悪いわね」


突如聞こえた声に振り返る。


『紫音……』


「名前」


にこりと綺麗に笑う紫音が私を呼ぶ。


細められた紫音の瞳に、背中が粟だった。




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