使い魔
†Case15:使い魔†
リュークの人間の姿は銀の綺麗な肩につくかつかないかくらいのさらさらな髪に、真っ白な肌に映える金色の瞳。
外見年齢は12、3歳くらいでショタコンには堪らないだろうなと思う。
「名前、そいつ誰だよ…?」
ブン太が擦り寄るリュークを見て眉を顰る。
『私の使い魔。可愛いでしょ?名前はリュークでケルベロスだよ』
「使い魔?へぇ…そのちびが?」
ちび、と言う単語にぴくりとリュークが反応する。
「ちびじゃない!私は本来お前なんかよりも大きいんだぞ!!」
リュークは噛み付く勢いでそうブン太に言う。
ブン太はそんなリュークに一瞬きょとんとした顔をするが、すぐに人懐っこい笑みを浮かべてリュークの頭をがしがしと撫でた。
さすが弟がいるだけあって、リュークを宥める仕種はお兄ちゃんっぽい。
『リューク、こっちはブン太。私の大切な人だからそんなに嫌わないで?』
「た、大切な人ってな、なんだよぃ」
『?…幼なじみって意味と友達って意味よ』
“大切な人”と言う言葉に反応したブン太にそう説明すると、ブン太はがっくりとうなだれた。
††††††††††
なんだかんだ言ってリュークもブン太を気に入ったようで、眉を寄せて嫌そうな顔をしていても満更でもないみたい。
その証拠に、短パンから覗く尻尾はピンと立って左右に振れている。
「…ところで名前さま、私に頼みたいこととはこの亀裂を塞ぐことで合っていますか?」
『うん。そのためにリュークの血が必要なの』
ブン太と話していたリュークが不意に私のほうを向き、教室にある亀裂を指した。
私が頷くと、リュークは自身の鋭い歯で指の皮膚を破ると私の手を取り同じようにする。
「痛いと思いますが我慢してください」
『んっ…』
ピリッ、と鈍い痛みが走り指先から血が出る。
その血を魔法陣を書きながらぽたりと落とし、聖水を落とす。
そして最後に下等悪魔の入った瓶ごと魔法陣に置くと、パアッと光った。
『……塞がった?』
「おお、綺麗さっぱり無くなってんぜ」
無くなった亀裂を見てホッと息を吐く。
ブン太はスゲーと言って亀裂のあった所に何度も腕を伸ばす。
ただの空気を掴むとはしゃいだような顔をしてもう一度同じことをする。
子供か、と突っ込みたいけどそれが何だか可愛いから頬を緩めて見ていた。
††††††††††
「…名前さまはブン太が好きなのですか?」
ブン太を見ていると、とことこと近寄ってきたリュークがいきなりそんなことを口走った。
『は、はあっ!?そんな訳ないでしょっ!!』
慌ててパタパタと手を振りながら否定するとブン太がビクリと肩を揺らして私を見る。
そんなブン太に何でもないから、と吐き捨ててリュークに絶対そんなことないんだからねと再度念を押す。
するとリュークはそうですか、と言って嬉しそうに笑った。
私がブン太のこと好きなんて、そんなこと絶対ない!!
だってだって普段学校では全く話さないし、目が合ってもすぐに逸らされるし、友達にも私の悪口ばっか言ってるし…。
でも、他の子が私の悪口言ってたら庇ってくれてるんだよ、ってあやちゃん言ってた。
それに、私がどんなに酷い扱いしても酷いこと言っても笑ってやってくれるくらい優しいし、喧嘩して謝ってくれるのはいつもブン太だ。
………でも、恋じゃない。
私が好きなのは、本気で好きなのはあの人だけ……。
あの人以外を好きになるなんて、そんなはずはないよ。
††††††††††
リュークを消して、人がちらほら来だした為ブン太と離れる。
「おはよう、名前。あら、今日は髪結んでるのね。可愛いわ…」
『おはよう、紫音。ありがとう』
紫音があやちゃんよりも早く来たため、私は紫音と話す。
二つに纏めた髪を触っていた紫音が不意に私の髪にキスを落とす。
『し、紫音!?』
「いい匂いがするわ。…ふふっ、焦った顔も可愛い」
いきなりの出来事に慌てると、楽しそうに紫音が口元を緩めて笑った。
「…やめんしゃい、転校生。名字が困っちょる」
私の髪に再度手を伸ばした紫音の手を振り払ったのは仁王君だ。
彼の隣にはブン太がハラハラとした顔で二人を見ている。
私と目が合うと、どうにかしろよぃと口パクされた。
「…あら、仁王君、丸井君おはよう。紫音、って呼んで欲しいものね」
ピリピリとした空気に私もこれをどうにかする勇気はないぞ、とブン太を見る。
だよな、と肩を竦めたブン太に、どうしようこの二人…と思っていると、あやちゃんが暢気に間に割って入った。
「あれ、名前髪結んでるのね。珍しい〜。でも流石名前、似合ってるよ」
ほわほわとした笑顔を浮かべるあやちゃんが神様に見える。
††††††††††
「…?どうしたの、皆して固まって。あ、皆おはよ」
挨拶すんの忘れてたわ、といいながら笑うあやちゃんを尊敬する。
相変わらずあやちゃんは空気を読むのが苦手なのかわざとなのか…、どっちにしろ今はそれがむしろ助かった。
「おはよう、絢さん」
「おはようさん、糸遊」
「はよ、糸遊」
ブン太もあからさまに助かったって顔をしている。
あやちゃんはそんな変化に気付いているのかいないのか、得に気にした様子はなくいつも通りに話し始めた。
仁王君と紫音は視線を全く合わせないのが怖かったけど、あやちゃんの話しで少しは紛れる。
「あ、そういや明日って、テニス部ここで練習試合するんでしょ?名前も行くの?」
いきなりのあやちゃんの爆弾発言に私は驚いた。
『え、そうなの…?私幸村君から何も聞いてない』
「あれ、そうなんだ?まあいいや。明日行くならさ差し入れ持って行ってあげるよ。あ、どうせなら紫音さんも来る?」
「ええ…。ご一緒させていただいてもいいかしら?」
「もちろん」
勝手に話しを進めるあやちゃんに、私はうなだれる。
そんな私を紫音が妖しい笑みで見ていたことなんて仁王君以外は知らない。
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