your name
クラスメイト全員からのメッセージが書かれたサイン色紙、チームメイトからはみゆみゆグッズ詰め合わせ、そしてファンクラブ特典で贈られてきたみゆみゆのバースデーカード……。
どれも心のこもった誕生日プレゼント。
「清志ー! ご飯できたから降りておいでー」
「今行く」
階段を降りてリビングのドアを開けると、テーブルの上にはいつもより豪華な飯が並んでいる。
大皿に乗せられた料理を運ぶ母さん、そして
「……何でお前がいるんだよ」
当たり前のように座っている、幼なじみ。
「こら、せっかく来てくれたのになんてこと言うの」
「いいんですよー、清志ってば照れちゃってまったく」
「照れてねーよ!!」
とにかくオレも席について飲み物をつぐ。ちゃっかりマグカップをこっちに向けてきやがる……。
「ただいまー」
「あら、お父さん。いいタイミング」
いつも帰りが遅い親父が珍しくこんな早い時間に帰ってきた。見覚えのある店の袋を持ちながら。
「ほら、清志が欲しがってたバッシュだぞ!」
「は? マジで!?」
手渡された行きつけのスポーツ用品店の袋から箱を取り出す。つーかオレ、親父にバッシュの話なんてしたか?
箱には贔屓にしているメーカーのロゴ。蓋を開ければ間違いなくオレの欲しかったバッシュが収まっていた。サイズも、カラーだって間違いない。
親父と名前が顔を合わせてにっこりとしている。
「親父、ありがと」
「大事に使うんだぞ」
そんなやりとりをしているうちに、テーブルの真ん中にいつの間にか鎮座しているロウソク付きのホールケーキ。
火つけてもいいかな、なんて名前はライターをカチカチと鳴らして待っている。
大きいロウソク一本と小さいロウソクが8本。それは紛れもなく、オレの年齢を表すものだった。
「よーし、ハッピーバースデーを歌おう!」
「はぁ? もうガキじゃねぇんだし……」
「良いじゃないか、一年に一回だけなんだから。せーの!」
「待ってお父さん! 電気消すから」
名前だけじゃなくて両親まで一緒になって歌い始める。
早く消さねーとロウソクが縮み始めてんだけど。
……ま、嫌な気はしないけどな。
「Happy birthday to you〜」
歌が終わると同時に一気に火を消す。
真っ暗になるリビングに響きわたる拍手。明かりをつければみんな笑っていて
……なんか照れる。
「このケーキ、名前ちゃんが作ったのよ?」
「わ! 言わなくていいですよー!」
慌てて遮る名前。どっかで買ってきたもんだと思ってたから、びっくりしたかも。
「あ、この上に乗ってるフルーツは木村くんちで買ったんだ。そしたら木村くんのお父さん、おまけしてくれたよ!」
「清志、明日ちゃんとお礼を言うんだぞ」
「……ああ」
木村の親父さんの笑顔がすぐ浮かび上がるわ。
いただきます、と食事に手をつけようとしたところで気付いた。今日の飯、オレの好きなものばっか。
チラッと母さんの方へ目をやれば、こちらを見てニッコリと微笑んだままそれ以上、言葉にはしなかった。
いつの間にかオレの小さい頃の話題で盛り上がっている。主に「あんなに小さかったのに、今ではこんなに大きくなっちゃって」という具合。
その話、事あるごとに持ち出してくるよなー。
飲み過ぎて酔いつぶれている親父と文句を言いながらも介抱している母さん。
片づけはやっておくから二人とも上で遊んでらっしゃい、なんて
親にとって子どもっつーのは、いつまで経っても子どものままなんだな。
「バッシュの紐、結んであげる!」
「断る」
「えぇー!?」
新しいバッシュにする度に名前は紐を結びたがる。最初のうちはやってもらっていたものの
緩かったり、きつすぎたりとまともに結んでもらったことは一度もない。
「結局結び直す羽目になるからいい……って!」
いつの間にかバッシュは名前の手に収まっていて、嬉々として紐を結び始めている。
ったく、油断も隙もねぇな。
プレゼントされたバッシュをまだオレが履いていないのにも関わらず、履いて歩き回っている名前。
「これ今日みんなからもらったやつ? あー! みゆみゆもいる」
みんな清志のことよくわかってるね、なんて笑いながらプレゼントを眺めている。
……一番わかってるのはお前だろ?
欲しかったバッシュだって、親父に教えたのはお前だろ?
好きな食べ物だってガキの頃から変わったのに、今好きなものを母さんに伝えたのはお前なんじゃねーの?
わかってんだよ、全部。
「ねーねー、また来年もこうやって清志の誕生日を祝えるかな」
「は? なんだよ急に」
毎年名前から祝ってもらって、オレも名前の誕生日を祝う。それはずっと昔から当たり前のようにやってきたこと。
だから言ってる意味がわかんねぇ。
「……だって、彼女が出来てるかもしれないよ?」
そうしたらもう一緒にお祝いできないね
って、なんだ。そんなこと心配してんのかよ。
……なぁ、そこにお前が彼女になるって選択肢はねーの?
なんて、まだ言わねえけど。
「そんなに祝いたいなら祝わせてやるよ」
来年も再来年も、この先ずっとな。
だからずっとオレの側にいろよ。
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