早乙女学園を卒業してからもう10年が経った。彼のくれた曲で卒業オーディションに合格したことは、まるで昨日のことのように覚えている。曲のタイトルは「初恋」。ありふれたタイトルに最初はあまり期待もされなかったけれど、歌い終わって会場を見渡すと、目に涙を浮かべながら拍手している同級生や先生の姿を捉えることができた。彼を想って書いた詩が、たくさんの人の心に響いたのだと早乙女さんも言ってくれた。

あれから、10年。完全に吹っ切れたといえば嘘になってしまうけれど、10年という時間は私の気持ちを整理するには十分すぎる月日だった。彼がいなければ幸せになれるはずがないと思っていたけれど、月日が経てば経つほど、少しずつ私の心も変化していった。人並みに恋をして、恋人もできた。もちろん彼を忘れたわけじゃない。けれど、心から私を愛してくれる人に巡り合うことができたから。もう人を好きになることはないと思っていた私の心を、その人は動かしてくれた。

今日はそのことに関わる大きな決断を那月くんと春歌ちゃんに聞いてほしくて、那月くん達の楽屋で、彼らの収録が終わるのを春歌ちゃんと2人で待っていた。彼も同じ番組に出ていて、楽屋も同じだから、部屋のモニターで収録の様子を眺める。那月くんの隣に座って一生懸命番組を盛り上げようとしている彼を見ながら自然に顔が綻ぶ。もうすぐ彼らの出番も終わる。そうしたら、2人にちゃんと言える。収録の終了が近づくたび、柄にもなく緊張してしまう。少しして、無事に収録も終わって出演者に挨拶をした2人が帰ってきた。



「お疲れ様!飲み物用意しといたよ」

「わあ!ありがとうございます〜!」

「サンキュー!喉カラカラなんだよ〜」



冷蔵庫から出しておいたお茶を春歌ちゃんと2人で手渡して、お互い向かい合って座る。あ、ヤバい。緊張してる。ちらりと横を見ると、コップに口をつけたまま、彼も同じようにどこか落ち着かない表情をしていた。少しの沈黙のあと、那月くんが「報告って何ですか?」と口を開くと、私の肩が微かにぴくりと上下した。隣の彼と一瞬だけ目を合わせる。任せろ、そう言ってくれているみたいに強く手を握られた。ああ、安心する。ほんの少しの沈黙のあと、彼が小さく息を吸い込んで、口を開いた。



「…俺達、来月結婚することにしたんだ」



那月くんと春歌ちゃんの目をしっかりと見て、彼はそう言った。2人は最初驚いていたけれど、すぐに満面の笑顔へと表情が変わる。おめでとうと何度も何度も言ってくれた。なんだか2年前の私達を見ているみたいだ。2年前、那月くんと春歌ちゃんから婚約の話を聞かされたときも、私と彼は同じように祝福した。だから、二人がこうして私達のことを祝福してくれることがとても嬉しい。



「よかった。いつきちゃんは今、幸せなんですね」

「うん。とても、とても幸せだよ」

「本当によかった。きっとさっちゃんも、貴女が幸せになることを望んでいたはずです。だから…」



もっともっと、世界中の誰よりも幸せになってください。そう言って、那月くんは涙を流しながら私と彼をまとめて抱きしめた。少し苦しかったけれど、それだけ那月くんの気持ちは痛いほど伝わってきたから、私も彼も文句は1つも言わなかった。
それからすぐに、春歌ちゃんと那月くんは他の仕事が入っているらしく、結婚式には絶対呼んでくださいね!と私の手を握って痛いほど振って、楽屋をあとにした。楽屋に残った私達はゆっくりと帰りの準備をしながら、さっき出ていった2人が思った通りの反応をしてくれたね、なんて笑い合った。



「…まあ、というわけだから、よろしくね。幸せにしてくれないと多分砂月が化けて出るよ」

「怖ぇこというな!俺とあいつじゃプチッと潰されて終わるじゃねーか!!」

「あら、小さい自覚はあったのね」

「ちっさくて悪かったな!!」

「ふふ、ごめんごめん。でも、プチッと潰されるのが嫌なら幸せにしてよね」

「…バーカ。幸せにしてはやんねーよ。一緒に幸せになるんだろ!」



いつの間にか帰りの準備を終わらせていた彼は、ぺしんと私の後頭部を軽く叩いて先に楽屋を出ていってしまった。それが彼の照れ隠しだと私は知っている。きっと今、耳まで真っ赤になっているんだろうな。
それもそうだね、なんて笑いながら、私もカバンを持って楽屋を出て彼を追いかけた。



END


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