嘗て月には国があった。

平和な国。豊かな国。そして――銀河で最も美しい種族の住まう国が。

だが彼らは、その美貌ゆえに、多くの異人に狙われ、一族は滅亡。月の国は…破滅の道を辿った。





そんな昔話を口ずさみながら、男は『月(空の星)』へと視線を上げる。



「たった一人で生きる苦しみを……“君”なら、理解してくれる筈だ」



弓形だった夜空の月は、夜毎に姿を変えていた。

月が満ちるまで、
   あと僅(わず)か。

“十五夜”は……直ぐそこまで迫っている。





月 の 雫
動 乱 篇 ―






「………」



名前から頼まれた買い物の帰り道。坂田銀時は、万事屋の玄関先で珍しい生き物を発見した。



「おい神楽。保健所に連絡しろ。家の前にゴリラが捨てられてっぞォ〜」

「ちょっ、待って!?俺ゴリラじゃないからァ!!ましてや捨てられてた訳でもないからァァァ!!」



銀時に襟を掴まれ、ズルズルと引き擦られながら万事屋へ入って来たのはゴリ……ではなく、江戸の治安を護る真選組の局長・近藤勲その人だ。



「真っ昼間に人ん家の前で何やってんだよゴリ。迷惑だろーがゴリ」

「そうネ、ゴリ。普通だったら保健所行きな所を見逃してやった私達に感謝しろヨ、ストーカー」

「ちょっとォ!!ゴリからストーカーに変わってるんですけどォォォ!?」



涙目でツッコミを加える近藤に、本日は助け船を出してくれる者がない。

疑問に思った近藤が、その事を問いただそうと口を開きかけた時、台所から名前が顔を覗かせた。



「神楽ちゃん大きな声出してどうしたの?あ、銀さん。帰ってたんですね。お使いご苦労様です」



白の割烹着(かっぽうぎ)姿で、帰宅した銀時を迎える名前。
しかし、銀時の引き擦って来た近藤を見て、キョトンと瞳を丸くした。



「もしかしてお客様?」



瞬間、ワタワタと慌てだし、名前は猛スピードで奥へと戻って行く。
それから直ぐに、容れたてのお茶をお盆に乗せ、再び近藤の前に現れた。



「お持て成しもせず、すみません。大したお構いはできませんが、ゆっくりしていって下さいね」



そう言って笑顔で茶を差し出す名前の姿に近藤は硬直。一瞬の沈黙の後、



「何か優しい人がいるんですけどォォォォォ!!」



物凄い形相で後方へと後ずさったのであった。


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