ゆらりゆらりと、身体が揺れる感覚に、名字名前は目を覚ました。

重い瞼を開け、見上げた先には、見慣れぬ天井。



(…ここ…は?)



全く覚えのない背景に、名前が視線を巡らせた瞬間。彼女に向かって、ひとつの声が掛かる。



「お目覚めか?お姫様」



反射的に声の主を辿った名前。けれど、そんな彼女の目に飛び込んで来たのは――、最悪の人物。



「高、杉」



一気に血の気が引いて行く。どうしてこの男が?何故、自分はこの男と?

身の危険を感じ、ガバリと身体を起こした名前。しかし、妙な違和感に眉をひそめた。身体が異様に軽く感じるのだ。

疑問に思い、視線を下ろした名前は絶句。何故なら彼女は一式まとわぬ姿で横になっていたから。



「!!」



名前は咄嗟に掛け布団を引き寄せ、胸の前で抱き締める。そして、高杉をおもいきり睨みつけた。



「ククッ。安心しな。アンタの着物を剥いだのは俺じゃねェ。来島また子って言う俺の部下だ」

「………」

「信じる・信じないはアンタの自由だが、ずぶ濡れの女を布団に寝かせる程、非常識じゃないって事位は理解してくれよ」



高杉の発した『ずぶ濡れ』と言う単語で、名前は全てを思い出す。

自分に声を掛けた謎の男。その男が翳(かざ)した紅色の刀。そして、血塗れの――銀時の姿を。



「銀さんは!?坂田銀時はどうなったのです!」



瞳を揺らして、高杉に問えば、彼は小さく一言。



「さぁな」



――と、だけ。



「そ、そんな…」



目の前が真っ暗になる。顔を真っ青にして、ガタガタと身体を震わせる名前を横目に、高杉はスクリと立ち上がると、



「――だが、くたばった訳じゃねーらしいぜ」

「え」

「ククッ。詳しく知りたきゃ、そこの着物を羽織って付いて来るんだな。会わせてやるよ。あの馬鹿(銀時)と勝手に殺り合った、人斬り似蔵にな」




◇ ◇ ◇


高杉の言葉に素直に頷いても良いものか、名前は暫し躊躇(ため)っていた。しかし、今の彼女に銀時の安否を確かめる術がないのも事実。彼を信じて付いて行くしかない。



「「………」」



互いに一言も話さないまま、静まり返った廊下を突き進んでいた時だ。



「似蔵の所へ連れて行く前に、ちょいと寄らなきゃならねー場所がある」



突然、口を開いた高杉が、とある部屋へと進路を変えた。

自分はどうすべきか悩んだが、共にこの場に連れて来たと言う事は、中に入られる事も許容範囲内なのではないだろうか?

そう解釈した名前は、高杉に続いて足を踏み入れ、そして――絶句した。



「こ、れは」



名前の目に飛び込んで来たのは、ずらりと並んだ円柱型の水槽。そしてその中に入っていたのは、銀時の腹部を貫いた、あの紅色の刀だったのだ。

刀そのものが放つ色合いの所為か、部屋一体は赤く染まって、不気味な雰囲気を漂わせている。


next