――その夜。

エリザベスから『桂・失踪』の話を聞かされた新八と神楽は、どうにか彼の消息を掴もうと、互いに別行動を取っていた。

橋の上に何故か残されていたと言う桂の所持品。赤黒く染まったソレを目にして『手遅れかも』とエリザベスは絶望する。

しかし、あの桂が殺られる訳はないと、神楽は血染めの所持品を頼りに、定春と町を探索。新八は直接辻斬りに聞くと言う、無謀なエリザベスと共に、薄暗い路地裏で張り込みを開始したのだ。



「エリザベス先輩。焼そばパン買ってきました」

┌────────┐
│俺が      │
│頼んだのは   │
│コロッケパンだ │
└────────┘

「いや、コロッケパン売り切れてたんで、似たようなの買ってきました!すみませんッス!!」



……という訳で、早速買い出しという名の“パシリ”を命じられた新八。

ついでに万事屋の様子を見てこようと、立ち寄ってみたのだが、明かりはついておらず、銀時も名前も不在のままだった。

銀時は兎も角として。この時間に名前がいないだなんて…。何かあったのだろうか?微かな不安が、新八の心を駆け巡る。



「どうッスか?辻斬りの奴は来ましたか??」



頭に『打倒辻斬り』のハチマキを絞め、危機迫る様子のエリザベスの背後に、新八は歩み寄った。



「でも、やっぱり無茶じゃないッスかね?辻斬りに、直接桂さんの事を聞くなんて…。まだ犯人が辻斬りって決まった訳じゃないし……」



──が、近付いた瞬間、突然バサッと斬りかかられ、新八は紙一重でソレを回避。勢い余って背後へと吹き飛んでしまう。



「なっ、何すんですかちょっとォォォ!!!」

┌─────┐
│俺の後に │
│立つな  │
└─────┘

「煩いよ!!どっちが前だか、後ろだか解らん身体してる癖にィィィ!」

「――おい」



刹那、背後から響いた何者かの声に、二人はビクリと肩を震わせた。

まさか辻斬りが現れたのでは…!冷たい汗が、背中をツーと滑り落ちる。



「何やってんだ?こんな所で。怪しい奴らめ」



しかし、振り向いた先に居たのは、御用の提灯(ちょうちん)を手にした奉行所の人間。一気に安堵の息がこぼれ落ちた。



「奉行所の人か。ビックリさせないで下さいよ」

「ビックリしたじゃないよ。「何やってんだ」って聞いてんの!!お前ら解ってんの?最近ここらにはな〜──……」



そこで不自然に止まる、奉行所の人間の言葉。

怪訝に思った新八が相手を見上げた次の瞬間、男の身体が二つに裂かれ、赤い飛沫が飛び散った。





「──辻斬りが出るから危ないよ」





迸(ほとばし)る赤の背後に、ただならぬ気配がひとつ。笠を被り、口元に笑みを浮かべたその男。

間違いなく新八達が探し求めていた──辻斬り!

それが解った瞬間、エリザベスは新八を庇うように、背後へ突き飛ばす。


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