激しい砂煙と共に、村の中へ押し入って来た黒服の集団。それが真選組と解るなり、夜盗達は血相を変えて逃げ惑った。
私はと言えば、突然の乱入者に全く頭がついていかなくて。間抜けにもポカンと口を開け放す。
「たく、来るのが遅せェんだよ税金ドロボー!」
その声にハッとして声の主を振り返ると、そこには不機嫌そうな表情の坂田さんの姿があるのみ。
つい今し方まで彼と刀を交えていた筈の高杉は、真選組の登場と共に早々と姿を消したようだ。
消えた高杉の事も気になるが、それより今は坂田さんの台詞。まるで彼等が此処に来る事を知っていたようではないか?
「あの、坂田さ――」
「っるせんだよ万事屋ァァァー!!こんなトコまで呼び出しやがって!」
事の真相を訊ねようと、傍らに立つ坂田さんを見上げた瞬間、私の声を遮る形で罵声が響いた。見ると鋭い目つきで、煙草を銜えた男性が一人。
その人はズンズンとこちらに向かって来たかと思えば、突然坂田さんの胸倉をグッと掴み上げる。
「おまけにてめーの寄越した電話、電波悪すぎて何言ってんのかさっぱり解んねーし!この場所突き止めんのに、こっちがどんだけ苦労したと思ってやがんだっ、あァ!?」
「んなもん知るかァ!ばあさんの携帯拝借して来たはいいが、使い方解んなかったんだよォ!!おまけに山ん中で中々携帯繋がんねーしっ、それぐれェ察しろマヨォ!」
「『夜盗襲来・乙女のピンチ』この二言だけでどうしろってんだ!場所を言いやがれ、場所を!!」
「今にも電波が途切れそうな状況下で、簡潔に説明をしなけりゃなんねェ俺の苦労が解かんねェのか多串君。何時からそんな薄情な子になったの」
「誰が多串だァァ!!!」
二人の会話から察するに、やはり多串くん達・真選組に連絡を取ったのは坂田さん自身のようだ。
けれどそんな時間はなかった筈。一体いつの間に多串くんに連絡を?
「多串くん、副長が率先してサボリとは、良い度胸じゃねェですかィ」
そう言って多串くんの背後にやって来たのは、どう見ても私より年下の、まだあどけなさの残る十代後半の少年だった。
「だから誰が多串くぅん!?総悟、てめーまで何言ってやがんだァァ!」
「さぼってたアンタが悪いんでさァ。それより粗方の夜盗は捕縛しましたぜ。…で?旦那の後ろに見えんのがピンチになってたメスですかィ?」
少年が手にした提灯を私の方に翳(かざ)す。 月明かりに目が慣れていた所為か、その光りが酷く眩しく感じて、私は咄嗟に両目を細めた。
『…っ、…』
刹那、周囲の面々がひゅっと息を飲むのが解り、どうしたのかと疑問を感じたが直ぐに気付く。
(そうだ。今私は容姿が変わっているんだった)
十五夜に容姿が変貌すると言う奇妙な体質の為、両親から「満月の日は一歩も外に出てはいけない」と言われ続けて来た。
だからこうして多くの人前で変貌した姿を晒(さら)すのは初めての事。
(可笑しいと思われる。気持ち悪いと思われる)
きっと凄く奇妙な姿に変貌するから。だから両親も私を外には出さなかったに違いない。
幼い頃から思い続けて来た己の考えに苛(さいな)まれ、私は顔を上げる事が出来なくなっていた。
月の雫 11 ≫夜盗達とのやりとりは完全スルーの名前ちゃん
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