自分がこの国の者ではない事は解っていた。満月になると姿が変わる人など聞いた事がないから。

それでも、私を本当の子供のように育ててくれた父と母。優しい村人達に囲まれて、私は幸せに暮らして来たのだ。自分が何者かなど考えもしない程、幸福な時を過ごして来たのに。それなのに、



「最も月が輝く満月の夜に、かぐや一族は偽りの仮面をはぎ取り、真の姿を取り戻す…か。これでアンタが、かぐやの生き残りと証明された訳だ」



ザワリザワリと人の気配を感じて辺りを見回すと、一体どこに隠れていたのか、先程まで姿の見えなかった夜盗達が、私の周りを取り囲んでいた。

変貌した私の姿を見るなり、目を見張る者・息を飲む者・不気味な笑みを浮かべる者。全身に突き刺さるその視線に、私はグッと唇を噛み締める。



「こいつは驚いたな」

「嗚呼。金持ちのお偉いさん方が、有り金つぎ込もうとするだけの価値はあるぜ。確かに上玉だ」



怖い。怖い。怖い。ジリジリと近付いて来る男達に恐怖し、体が震えた。

その内、夜盗の一人が包帯の男に問いかける。



「この女、俺等が貰って良いんですよね?旦那」

「言った筈だぜ?俺はそいつの面(つら)が拝みたかっただけで、その女にも、女に賭けられた金にも興味はねェってな」



それだけ告げると男は踵(きびす)を返して背を向けた。しかし、一瞬だけ顔をこちらに向けると、



「国が滅び、一族が滅び。孤独になった挙げ句、生き残って、今度は馬鹿な天人どもに売られるなんざァ……哀れな女だ」



『哀れ』だと、そう言った。私が『孤独』だと。

それを聞いた瞬間だ。



「待って」



気付けば私は、男を呼び止めていた。呼び止め、そして睨みつけていた。



「国が滅び、一族が滅んだからと言って、勝手に人を孤独だと決めないで。私が孤独か・そうじゃないか、それを決めるのは貴方じゃない。決めるのは――この私です!」



孤独だと感じた事は一度だってない。父母が本当の両親ではないと解っていたけど、二人は心から私を愛してくれたから。

男は背を向けたままだった。背を向けたまま静かに佇んでいた。その背に、私は更に投げつける。



「自分が哀れだとは思いません。生き残った事を後悔もしません。だって、そのお陰で、私は…」



“私は幸せだったから”

そう言い切った直後だった。背後でドーン!と言う大きな物音が聞こえ、





「格好良いじゃねェか」





声が――響いた。それも聞き覚えのある気怠げな、けれど凛とした声が。

私はゆっくりと振り返る。そして目を見開いた。何故なら私の目に飛び込んで来たのは、一本の木刀を片手に、群がる夜盗を次々となぎ払う、坂田さんの姿だったから。



月の雫 08

≫普段はどうしようもない奴ですが、決める時はビシッと決めてくれる、そんな銀さんが大好きです。夢主も自分の生い立ち(※種族の事は除いて)を何とな〜く気付いていた模様。強い人です。