on June 9th

折角の誕生日だと言うのに僕の前には――敵・敵・敵…。敵の群れ。



「全く…僕は何をしているのでしょうね」



と、いうか沢田綱吉…君が何をさせるんですか。本気で恨みますよ。




◇ ◇ ◇


あれは三日前の事。何時も彼女の傍を離れない邪魔な連中が任務で出掛けて居た為、僕は名前と有意義な一時を過ごして居た。すると彼女が突然、



「骸さん、もう直ぐお誕生日ですよね?」



そう訊ねて来た。余りに急な事だったので、僕は反応が遅れる。たんじょうび?タンジョウビ?……………………………………………………嗚呼、誕生日の事ですか。



「あ、あのっ…もしかして違いましたか!!」

「いえ、合っていますよ。そうですね…もう直ぐ誕生日でしたね」



すっかり忘れていました。…と、いうより頭の片隅にも有りませんでしたよ。素直にそう口にした僕を名前は不思議そうに見つめて来る。



「…ご自分のお誕生日なのに、頭の片隅にも無かったのですか?」

「そうですが…、…何か変でしょうか?」

「変…というか、普通は忘れないと思います。だって『誕生日』って特別な日じゃないですか」

「そうですか?僕は一度だって特別な日だと思った事はありませんが」

「え?」



どうしてですか?…名前は理由を知りたがった。けれど僕は口を閉ざす。――何故って、君にだけは知られたくないからですよ。深紅に染まった僕の過去を…。

そう。これまで誕生日が『特別な日』だと思った事は一度だってない。
寧ろ、生まれて来た事を『後悔する日』だった。まあ、中々数奇な人生を辿って来ましたからね。僕のような経験をすれば誰だってそう思うでしょう。――こんな薄汚れた世界になど生まれて来なければ良かった…と。



「………」



瞳を伏せて黙り込む僕に、名前は何かを感じ取ったのかも知れません。それ以上、何も問い正しては来なかった。



「「………」」



お互い黙り込んだまま、暫く沈黙が続く。これでは折角の時間が台無しだ。そう感じて話題を変えようとした時――。





「…だけどやっぱり――誕生日は『特別な日』……だと思いますよ」





僕を遮って先に口を開いたのは名前だった。


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