鏡の中の世界
朝だというのに人通りは少なく、私と制服姿の沢田さんの間には妙な沈黙が流れていた。
どうやら私は『パラレルワールド』というモノに迷い込んでしまったらしい。勿論、その答えに辿り着くまでは相当悩んだりもした。けれど…。
『ゴメンなさいね綱吉君。毎朝名前ちゃんの事迎えに来て貰って〜』
『いえ。折角同じ並中に通ってるんですから。それにオレも名前と登校できて嬉しいし…』
『まあ〜v名前ちゃんたらこんな素敵な幼なじみを持って幸せね〜♪』
私を迎えに来たという幼なじみの沢田さんと、そんな彼にメロメロな母。この二人の『有り得ない会話』を聞いてしまえば、否応無しにそういう答えが出てしまう訳で…。
考えられる原因は一つしかない。倉庫で見つけたあの『鏡』だ。全くどうしてあんな物を見つけてしまったのだろう。自分自身を恨みたくなる。
それより、先ずは元の世界に戻る方法を探さなければ!!…でも、私一人で大丈夫なのだろうか。
「今日は…やけに静かなんだな…名前…」
一人でぐるぐる悩んでいると、前を歩いていた小さな沢田さんがこちらを振り返って呟いた。
「おばさんから聞いたけど、珍しく寝坊したんだろ?何かあったのか?」
「い、いえっ!!?」
ありました!ありましたとも!!…でもそれを素直に話す訳にはいかないので、ぶんぶんと勢いよく頭を振って否定する。
そんな私を見て、一瞬だけ顔を顰めた沢田さん。けれど、彼は何も聞かずにまた歩き始めた。
深く追求されなかった事に安堵し、私はホッと息を吐く。それにしてもこの世界の沢田さんはクールだ。全く笑わないし、グローブを着けてハイパー化した時のよう…と言えば分かり易いだろうか。あんな感じ。世界が違うだけでこんなにも性格が変わるとは驚きだ。
(でもそれじゃあ他の皆さんは…?他の皆さんも全然違うのかな?)
ふと、そんな疑問が頭に浮かんだその時だ。
「おお、沢田!!」
「10代目!」
「よお、ツナ♪」
噂をすれば何とやら…。多分間違いない!少し高めだけれど聞き覚えのあるこの声。“この世界”の獄寺さん、山本さん、笹川さんの登場だ!
私はドキドキと騒がしい胸を押さえ、ふぅー…と小さく息を吐いた。