鏡の中の世界
PiPiPiPi。
時計のアラーム音で目が覚める。部屋の中にはほんのりと光が射し込み、新しい朝を迎えた事を知らせてくれていた。
今日も一日頑張るぞ。…そう思わなければいけないに、何だか頭がぼんやりする。もしかして風邪でもひいたのだろうか。
「で、も……熱はなさそうだし、大丈夫かな」
顔を洗ってスッキリすれば、この怠さもなくなる。私は自分にそう言い聞かせ、重い身体を無理矢理叩き起こした。
◇ ◇ ◇
けれど、お昼を過ぎても身体の怠さは一向に消えなくて…。私は自分から「やらせて下さい」と、お願いした倉庫の片付けを中断して、ふぅー…と大きな溜息を吐いた。
「…身体…重いな」
だからと言って、此処で止める訳にはいかない。「名前様にそんな事をさせられません」渋るメイドさん達を説得して無理矢理やらせて貰ったのだから、きちんと最後までやらないと…!
「よし!!」
私はパンパン…と頬を叩いて再び作業に戻ろうとした――その時だった。
コトッ。
部屋の奥から物音が聞こえて、顔を上げる。
「何か落ちたみたい」
暫く人の手が入っていなかった所為か、倉庫の中は物が散乱していて酷い有様だった。それを一人で片付けようというのだから、私も相当暇人だ。
何て笑ってる場合ではない。何か落ちたのなら元の場所に戻さないと…。
「確かこっちの方から音がしたような――…て、あれ?……片付いてる」
物音のした方に歩いて行くが、そこは他と違って綺麗に整頓されていた。可笑しいな?確かこっちだと思ったのだけど…。
私は首を傾げながら来た道を戻ろうと振り返る。すると…コツ。何かが足に当たった。視線を落すとそこには一枚の鏡が。
「どうしてこんな所に」
身を屈めて鏡に手を伸ばす。ほこりを被って白くなっているが、恐らく高価な物だ。証拠に綺麗な装飾が施されている。
「アンティークかな?でも、どうして倉庫に…」
否、取り敢えず考えるのは後回し。先ずはこれを元の場所に戻さないと!
そう思い、鏡を胸に抱いた――瞬間だった。
突然、声が響いたのだ。私しか居ない筈の、部屋の中で――…。
「…だ、誰!?」
私は咄嗟に辺りを見回す。でもやっぱり誰も居なくて…。一気に恐怖心が沸き上がって来る。
(――コッチ……)
再び響いたその声に、私はビクリと肩を揺らした。この声、近くから聞こえる。それも私の傍“腕の中”から――…。