相合い傘
小雨の降りしきる昼下がり…。私は傘も差さずに、門までの道を走り抜ける。その理由は――?
「隼人さん!」
愛しい恋人を出迎える為だ。私は彼の名前を呼びならが、その身体に抱きついた。グラリ。反動で後ろに倒れ掛けたけれど、隼人さんがしっかりと抱き留めてくれる。
「このバカ!傘も差さずに何やってんだっっ」
「お帰りなさい!!」
「ん?嗚呼――…って違うだろ!!!俺は傘も差さずに何やってんだって訊いてんだ、バカ名前!」
「今日、隼人さんが任務からお帰りになるとお聞きしたので、ずっと待っていたんです!!」
「……待ってた……………って………何処で?」
「玄関先です」
ニコニコ笑顔で隼人さんを見上げたのだけど、何故か彼の肩はワナワナと震えていた。「隼人さん?」と声を掛けた瞬間、
「こンのバカ!!」
おもいきり怒鳴られてしまいました。鼓膜がキンキンします!!
「どどうしたんです!」
「どうしたじゃねー!」
隼人さんは私の身体を軽く引き離すと着ていたスーツのジャケットを脱ぎ始める。そしてそれを私に羽織らせてしまった。
「は、隼人さん!スーツが濡れちゃいますっ」
「ンなもん濡れてなんぼ何だよ。いいからそのまま羽織ってろ、バカ」
「……バカバカ言い過ぎです、隼人さん」
「バカにバカって言って何が悪ーんだよ。たく。今何時だと思ってんだ?もう昼過ぎだぞ?何時帰って来るかも分からねー奴を雨の降る中、玄関先外で待つ奴が在るかっ」
「…ゴメンなさい…」
早く隼人さんに会いたくて待っていたのに、それが原因で彼を怒らせてしまった。シュン…と俯く私を見て、彼は、はあ〜と盛大な溜息を零す。
「……別にお前に迎えられるのは嫌じゃねー」
私は顔を上げる。目の前には、そっぽを向いて頬を染める恋人の姿。
「ただその所為で体調崩されるのが嫌なんだよ!!…名前の弱ってる姿なんて見たくねーからな」
隼人さん、私の身体を心配してくれたんですね。この『不器用な優しさ』が大好きだった。だからこの人を好きになった。
「……隼人さん、顔真っ赤ですよ」
「な//見んじゃねーっ」
瞬間、グッと身体を引き寄せられ、私は隼人さんの腕の中へ…。
「ふふ///…抱き締められたら見えません」
私はそっと隼人さんの背中に腕を回す。刹那、彼の腕にも力が篭もった。
「見えなくて十分だ」
小雨の降りしきる昼下がり…。私は濡れる事も気にせず、大好きな人の温もりに包まれていた。
相合い傘
‐1周年企画 第5位‐
(雨の日も悪くねぇな。一つの傘を二人で差せば、何時も以上に名前を近くに感じられる)