どくせん

「ねえ」

「あ、雲雀さん」



その日。私の部屋に珍しいお客様が訪ねて来た。――と、言っても相手は恋人の雲雀恭弥さん。

互いの部屋を行き来するのはそんなに珍しい事ではないのですが、彼の方から訪ねて来てくれる事は滅多にない。大概、こちらから誘うか、何か用がなければ絶対会いに来て下さらないのだ。



「どうしたんですか突然!!私に何か?」

「……用がないと来ちゃいけないって決まりでもあるのかい?」

「そ、そんな事ありません!雲雀さんなら何時でも大歓迎です!!」



そんな彼が用もないのに会いに来てくれる何て…。凄く、嬉しい。



「あの、雲雀さん。お時間があるなら休憩して行きませんか?美味しいお菓子を頂いたんです」

「…お菓子?」

「はい!骸さんが任務先で買って来て――」



“下さって”。そう続く筈の言葉は、前方からビシバシ感じる凄まじい冷気によって遮られた。

き、気の所為でしょうか?何だか物凄〜く、お怒りのような気が…ι



「…………ねえ…」

「は、はい!!!」



私はピンと背筋を伸ばす。どうやら気の所為ではないようです。――完全に怒っています!!
ど、どうしてっ?私、何か機嫌を損ねるような事を言いましたか!!



「……前から気になってたんだけど…」



ま、前から!?一体何が原因なのですか!!!



「……どうして六道骸は“名前”で呼ぶの?」







・・・・・・・へ?







「どうしてあの男は“名前”で呼ぶのに、僕の事は“名字”なの?」

「えーと、…え??」

「それにあの男だけじゃない。跳ね馬や、牛の彼の事も名前で呼ぶよね?……どうして?」



私はきょとんと目を丸くする。これは自惚れてもいいのでしょうか。私の勘違いでなければ――



「やきもち…ですか?」

「違うよ」



間髪入れずに即答で返された。どうやら本当に自惚れだったようですι恥ずかしいな…と、軽く俯いた瞬間、グイッと腕を引き寄せられ、雲雀さんに抱き締められる。



「ひ、雲雀さんっ///」

「…別にやきもちじゃない。ただの独占欲だよ」

「!!///」



どう違うのか良く分からないけど、雲雀さんがそんな事を言ってくれるとは思わなくて…。嬉しいやら、恥ずかしいやらで、私の頬は見る見る内に赤く染まっていった。

そんな私を可笑しそうに見ていた雲雀さん。彼は滅多に人に見せない穏やかな表情を浮かべると。



「…何赤くなってるの?…相変わらず見ていて飽きないね、名前は…」



私の額に口付けを落とした。私の頬は更に赤く染まり、同時に雲雀さんの笑みも深くなって行く。

そんな恋人に私が出来る“仕返し”と言えば…。



「――っっ…き、恭弥さんの意地悪///」



これ位しかありません。



どくせん
‐1周年企画 第3位‐

(君の名字が『雲雀』に変わるまでには慣れて置いた方が良いと思うよ)

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