わがまま

夜空に浮かぶ、まん丸お月様。それを見上げて私は、はあと溜息を零す。

彼が任務に出掛けてから1、2、3、4………もう6日も会っていない。勿論、大切な任務だと言う事は分かっている。分かっているけれど――。



「……会いたい、な…」



呟く声は闇へと消える。



「寂しいです…骸さん」



ぼー…と月を眺めていると、突然背後に人の気配を感じた。振り返ろうとした私だったけれど、



「――っっ」



それよりも早く相手に抱き締められる。瞬間、覚えのある香りに包まれた。この香り。まさか…。



「こんな所に居ては身体を冷やしますよ…」

「む、骸さん!!」



私が今、もっとも会いたいと願っていた『大切な想い人』だった。



「え?え?どうして骸さんが此処に――っ」



驚きの余り、思考回路が上手く回らない。何故なら沢田さんに1週間以上は掛かる厄介な任務だと聞いていたから…。

それなのに、どうして?



「クフフ。折角久しぶりに会えたのに、喜んではくれないのですか?」

「う、嬉しいです!嬉しいですけど、でも本当にどうして…?」

「君に会いたい余りに早急に任務を終わらせて帰って来てしまいました」



ぎゅっ。私を抱き締める腕に更に力が篭もった。



「――ですが、名前にも内緒で帰って来た甲斐がありましたね」

「え?」

「君の口から『寂しい』と言う言葉が聞けた」



背中越しに骸さんの体温が伝わって来て、私の心臓がトクリと跳ねる。



「名前は余り、そう言った事を口にしてくれませんから…。だから君の本心が聞けて、僕はとても嬉しいんです」

「………」



今まで『寂しい』や『会いたい』と言う感情を口にしなかったのは、貴方の邪魔をしたくなかったから…。面倒な女だと想われて貴方に嫌われるのが怖かったから…。

だからどんなに寂しくても、会いたくても、それらの言葉を絶対に口にはしなかった。だけど。



「名前、もっと我が儘を言って下さい。その方が僕も嬉しい…。愛する君の願いは、何でも叶えてあげたいんです」



本当に良いのだろうか。この想いを口にしても…。でも、貴方が望んでくれるのなら、勇気を出して言ってみよう――。





「……もっ…と、貴方と一緒に…居たい…です」





躊躇いがちにそう囁くと、骸さんは私の後頭部に唇を寄せ、そのまま優しく口付けてくれた。



わがまま
‐1周年企画 第2位‐

(クフフ。では早速沢田綱吉に長期休暇の申請をしに行きましょうか…)

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