ゆびさき

ゆらゆらと風に揺れる、おさげ髪。漆黒の長いそれに触れたくて私は不意に手を伸ばした。



「どうしたのですか」



突然の行動にも取り乱した様子を見せず、彼は何時も通りの穏やかな微笑みを私に向けてくれる。



「風さんの髪、長くて凄く綺麗ですよね」

「そうでしょうか?長くて綺麗……と言うなら、私よりは名前の方が適切だと思うのですが」



そう言って風さんの手が私の髪に触れる。さらりと指先を滑り落ちる黒髪を見つめて、彼はふっと口元を綻ばせた。



「――ほら。やはり貴女の方が綺麗だ」



そのまま髪を一房手に取り、唇を寄せる。恥ずかしくて俯いていると「おや?」頭上から不思議そうな声が聞こえてきた。



「名前、シャンプーを変えましたか?」

「え?は、はい。何時も使っているものを買い忘れていたので、メイドさんが違うのを用意してくれたんです。でも……良く分かりましたね?」

「他の誰でもない、貴女の事………ですからね」



クスと笑みを洩らしながら、風さんが後頭部に手を回す。そのまま優しく引き寄せられ――。


互いの唇が重なる。


別に『これ』が初めて………と言う訳ではない。恋人同士なら当たり前の行為だと思うし、風さんとはもう何度も唇を重ね合わせた仲だから…。



(でも、だけど…)



やはり恥ずかしい。かあぁあ…と頬が紅潮するのが分かる。恥ずかしくて、恥ずかしくて、顔を上げる事が出来なかった。



「可愛らしいですね」



甘く耳元で囁かれて、身体が痺れたように動かなくなる。『大人の余裕』と言う奴だろうか。何時も、何時も私は風さんに振り回される。勿論、彼が故意にやっているとは思っていないけれど、やはり振り回されっぱなしと言うのは少し悔しい。



(だって、それだけ私が風さんの事を好き、と言う事だから…///)



彼にも同じ位自分を好きになって欲しい。そんな風に思う事は『我が儘』ですか?私はぎゅっと風さんの胸に顔を埋めた。

その刹那、彼の身体がビクリと硬直した…ように感じた。それから「はあ〜全く」と盛大な溜息が聞こえて来て――。



「そんな可愛らしい事をされると益々貴女を好きになってしまいますよ」



逆にぎゅっと抱き締められてしまった。



ゆびさき

‐1周年企画 第1位‐

(これ以上私を好きにさせてどうするんです)

prve|next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -