魔法の薬
季節の変わり目というのは、どうして体調を崩してしまうのだろうか。
「コホン、コホン」
夕べ少し薄着をしただけで、この有様。完全に風邪を引いてしまったらしい。身体が丈夫な事が自慢の私だけど、流石に風邪には勝てそうにない。
何度か咳込んだ後、ふるりと身体を震わせる。これは熱まで出て来たかも知れないな。そう思い、燃えるように熱い手を自身の額に押し当てた。
コンコン。
――と、その時。控え目に自室の扉をノックする音が聞こえて、私はゆっくりと身体を起こす。
「はい」
返事を返すと直ぐに扉が開かれ、中に入って来たのは、洗面器を持った獄寺さんと、一人用の小さな鍋を持った山本さん。
しかし二人は、私が起きていた事に驚きの表情を見せ、慌てたように傍まで歩み寄って来る。
「Σんなっっ、てめっ、なに起きてやがる!!」
「おいおい平気なのか」
「無理せず寝てやがれっっ、このバカ名前!!!!」
獄寺さんの怒鳴り声が今日は頭によく響く。私が一瞬だけ顔をしかめると、彼はハッとしたように瞳を見開き、そして「…わ、わり」と、申し訳なさそうに顔を背ける。
私はふふっと笑みを零して毛布の中に潜り込んだ。それを見た二人はホッと安堵の息を吐き、互いに手にした、洗面器と鍋をテーブルの上に置く。
「調子はどうなんだ?」
山本さんが訊ねる。
「絶好調……とは言い難いですね。少し熱も出て来たみたいですし」
「熱は?計ったのか?」
「いえ、まだ…」
「どれ」
言うや否や、山本さんがスッと顔を近付けて来た。何をするのかと思いきや、私の額と自身の額をピタリとくっつけたの。
「や、山本さん!!///」
瞬時に頬が朱に染まる。
「確かに熱いな」
「Σこンの野球バカ!!熱、計るなら手で十分だろーがっっ、手でー///」
「ん?嗚呼、そっか」
『そっか』ではない。山本さんは心臓に悪い事をする。これでは更に熱が上がってしまいそうだ。
「――と、そうだ。名前、食欲は?なんか食えそうか?食えそうなら卵粥を作って来たんだけど」
「山本さんが?」
「おう♪なんか口にしねーと、薬も飲めねーと思ってな。……どうだ?」
そうか。山本さんが持って来たあの小さな鍋はお粥だったのか。食欲は余りないけど、お粥なら。
「はい。頂きます」