離したい、でも放せない
「もう、知りません!!」
珍しく名前の怒鳴り声が響いた直後、バタンと、これまた珍しく乱暴に扉を閉める音が聞こえて、その部屋の主。沢田綱吉は「はあ」とそれはそれは盛大な溜息を零した。
「いい加減、名前をからかうのは止めて下さい」
綱吉がげんなりとした顔で注意を促したのは、名前の出て行った扉を穏やかな表情で見つめる、ボンゴレの創始者。歴代最強のボス・T世だ。
「止めろと言われても、こればかりはどうする事も出来ない。顔を赤く染めて怒る名前は、実に愛らしいからな。…お前もそう思わないか、]世」
プリーモの返答に、綱吉はもう一度深い溜息を零す。分かっていたさ。ああ分かっていたとも!!この人が絶対に首を縦に振らない事くらいは…!
それでも言わずには居られなかった。何故って此処は『俺』の部屋なんだ。イチャつくのなら何処か余所でやって欲しいと思うのが当然だろう!!
(何が悲しくて、好きな女と、自分の先祖が痴話喧嘩をする場面を目撃しなきゃならないんだよ)
それも一度や二度ではなく、毎回だ!毎回!!
「はあ」と何度目になるか分からない溜息を零しながら、綱吉は右手に持った書類の束を放り投げ、机の上に突っ伏した。
その姿を傍らで見ていたプリーモが笑顔で呟く。
「そう邪険にするな]世。…もう暫くの辛抱だ」
もう暫く。プリーモの言葉に綱吉は顔を上げた。
「このままでいけない事は俺が一番分かっている。…俺は既に、この世には存在しない人間だからな。そんな奴といても名前は幸せにはなれない」
分かっている。分かっているのだ。例えどんなに心を通わせようと、生きている人間と死んでいる人間とでは、決して結ばれる事はないのだと…。
そう分かっていても、プリーモは名前の優しさに惹かれ、そして名前もプリーモを慕ってくれた。人間の感情ほど厄介なものはない。『いけない』と分かっているのに止められないのだからな…。
(けれどそれも終わりにしなければならない)
このままでは後戻りが出来なくなる。それ程までにプリーモは名前に惹かれてしまったのだ。
「離れる準備をする為に、わざとあんな事を?」
綱吉の問いかけに、プリーモは無言で頷いた。
名前の怒った顔が愛らしいから…と言うのも、決して嘘などではない。