永久の誓い

その日、自室に籠もって報告書に目を通していた雲雀恭弥は、妙な違和感を感じて、顔を上げた。



「………」



何時も通りの変わり映えのない殺風景な室内。しかしほんの一瞬。一瞬だけ、辺りの空気が変わったように感じたのだ。



(…何、これ)



余りに不快なその感覚に、雲雀はムスっと顔を顰(しか)める。机の上には山積みにされた大量の書類。それを見ていると更に不快感が増して来て。



「…これじゃあ、仕事にならないな」



雲雀は小さく溜息を吐き、右手に持った書類の束を机の上に放り投げた。
今更ながらに思う。どうして僕がこんな事をしなければならないのかと。

守護者の一人でありながら、雲雀は基本ボンゴレの任務は行わない。独自の考えで、独自に動く。それが雲雀のスタイルだから。決して周りと足並みを揃えない雲雀だが、人手不足を理由に、ボンゴレの仕事を頼まれる事もしばしば。請け負う義理はないのだが、沢田綱吉に貸しを作るのも悪くないと、仕方なく引き受けた結果が…この有様。



『任務を引き受けてくれるのは有り難いんですけど、ちゃんと報告書を出して下さい!雲雀さん』



沢田綱吉にそう泣きつかれたのは何時の事だっただろうか。初めの内は、悉(ことごと)くシカトを決め込んでいた雲雀だったが、余りのしつこさに、結局……彼の方が折れてしまったと言う訳。

部下の草壁が、雲雀も知らない内に報告書の作成をしていたお陰で、雲雀はその書類に目を通せば良いだけなのだが、その作業が実に煩わしい。

並盛関連の書類なら、幾ら目を通しても飽きないのに…と、思わず洩らしてしまいそうになった。



「…並盛…、か」



あの町を離れて、もう何ヶ月になるだろうか。雲雀にとって並盛町は大切な町であり、愛すべき町だ。自分の手で何人からも守ってやりたいと、そう思っている。しかし、今の雲雀に此処を離れるつもりは更々なかった。


――何故なら此処には、名前がいるから…。


誰かの為に…何て、そんならしくない事を考えながら雲雀は静かに席を立つ。本当にらしくない。彼女の事を考えただけで、こんなにも名前に会いたくなるのだから。



(まあ、君の顔が見たくなった何て口が裂けても言ってあげないけどね)




◇ ◇ ◇


ドアノブを回して廊下に出た瞬間、雲雀は、先程まで感じていた妙な違和感が気の所為ではなかった事を改めて痛感する。

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