only one!
カラン、コロン。
二人分の下駄の音が真夏の夜空に響き渡る。浴衣姿の私の隣には、同じく浴衣姿の雲雀恭弥さん。
どうして私達がこんな格好をしているかというと、今日は並盛神社で夏祭りが行われるらしく、『折角だから、お二人で出掛けられてはどうですか』と草壁さんに進められたのがきっかけだった。
私には凄く嬉しい申し出だったけれど、相手は人の多い場所を嫌う雲雀さん。一緒に行ってくれる可能性はゼロに等しい。
それでも駄目もとで誘ってみた所、意外にも彼からの返答は「構わないよ」というもので…。正直、嬉しさよりも驚きの方が勝ってしまった位だ。
「何?」
そんな事を考えながら彼の横顔を見上げていると、訝しげな顔で雲雀さんに振り返られる。拙い。凝視をし過ぎました。
私は「いえ」と首を振りつつ、慌てて視線を足下に落とす。視界に入ったのは真っ赤な鼻緒。
下駄なんて久し振りに履いたな。浴衣だって。
(それに…)
チラリ。私は微かに視線を上げた。雲雀さんの和装は見慣れているつもりだったが、こうして改めて眺めると、やはり素敵だなと見惚れてしまう。
行き交う女性も殆どが雲雀さんを振り返っていて、少し…居心地が悪い。
◇ ◇ ◇
「わあ」
長い長い階段を登り終えると、そこには夏の夜の定番ともいえる、鮮やかな光景が広がっていた。
りんご飴に金魚すくい、水風船など。様々な露店が境内を彩っていて、まるで夢の国のようだ。行き交う子供達も、皆楽しそうに走り回っている。
ふと隣を盗み見ると、不機嫌そうに瞳を閉じた雲雀さんの姿が目に入る。予想通りの反応だ。私はクスリと笑みを零した。
「折角だから、お店を見て回りましょうよ。雲雀さんは何処か見たいお店はありますか?」
「そんな所ある訳ないよ。君の好きにすれば…」
「好きに、ですか?」
そう言われると真剣に悩んでしまう。綿飴も食べたいし、水風船もやりたいな。かき氷に射的。上げ始めたら切りがない。
「何、一人で百面相してるの?早く決めなよ」
「す、すみません。回りたいお店ばかりだから」
「…そんなにあるの?」
「はい!数えただけでも4カ所はありました」
そう言って4本指を立てて見せると、雲雀さんは沈黙。けれどその直後に、一瞬だけ瞳を細めたのを私は見逃さなかった。
「…じゃあ行くよ」
「え?何処に――」