ここ、グシュテイム王国に来て数ヶ月が経った。俺は渡者(わたりもの)と呼ばれる。
目を覚ましたら知らぬ地にいて言葉は通じるが日本のような風景ではなく中世のヨーロッパのようなお城が建っていた。
そして、俺は1人来たのではなくその横には俺の学校に転校し色々と騒がれている転校生、須川 明(すがわ あきら)が寝ていた。しばらくして兵士たちが集まり俺たちは捕らえられ王の前まで連れてこられた。
須川は変装していたらしく、その下は金髪で緑眼の可愛い容姿をしていた。
そのため王達には神子とされ大事にされている。噂で聞いていた通り、須川は美形と呼ばれる人たちに好かれていった。世間知らずで自己中心的、自分が正しいと思い込んでいる。
俺は平凡で黒髪で黒目で神子に縋りつく忌子とされ酷い仕打ちを受けている。日本では黒髪黒目は当たり前にいるのに。
おかげで身体は痣だらけ。とてもじゃないが歩くことでさえ苦痛で仕方ない。
そんな俺には一つだけ幸せだと感じることがある。1ヶ月に何度か訪れるルグジェ皇帝を見ることだ。俺は軟禁されていて城の離れにあるんだけど、ルグジェ皇帝がくる前は騒がしくなる為こっそりと見に来ている。
ルグジェ皇帝はこの国よりも戦力が高く土地も民も豊かな国の皇帝。この世界を束ねてると言っても過言ではない。
ルグジェ皇帝は須川が目当てで来ている。それはわかりきってる事だ。神子だし。
須川のことだルグジェ皇帝はこの国の人たちよりも整った顔立ちをしているから気に入るのだろう。
ルグジェ皇帝も須川が好きになって妃、妃候補にいれてるのかも。
何を考えているのかわからない表情だがそこがいい。噂では無口と聞く。
俺はホモじゃないけど何故かルグジェ皇帝には心惹かれている。
バレると仕置をされるので早めに離れに戻る。離れの庭は忌子の俺がいるのに手入れがされている。俺は部屋は閉鎖的で息苦しい。
だからこの広々とした場所が好きだ。
庭に来ることは許されている為、いつでもこれる。他に来る人なんて朝昼晩にご飯を届けに来てくれる世話役しかいない。会話はないけど。
今日は珍しく夜に庭に出る。
涼しい風が頬をかすめる。
ルグジェ皇帝が来ているときは仕打ちは受けない。接待とか忙しいのだろう。
「はぁ…戻りたいな…。」
芝に腰を下ろし空を見上げる。
すると
「お前は…1人か?」
誰もこない筈の場所に今日は珍しく来客だ。足音すら聞こえなかった。
顔は暗くて見えない、服装も軽装だ。
「暗くて顔がわかりませんが、そんな軽装だと身を守れませんよ。」
ああ、このように内容は違うけど須川助言しただけで怒らせ王族から熱湯をかけられたことがあるなと思い出す。熱湯をかけられたことで腕にはケロイドが残ったんだった。
この話しかけた人が王族なら俺は無事では済まないなと呑気に考える。
「この格好で出歩いているんだ覚悟も出来てる。」
「そうですか。俺は別に何かする気もありませんから。」
害は無いと伝え立ち去ろうとする。
「また、明日この時間に居るか?」
「今日はたまたまです。それじゃおやすみなさい。」
立ち去り、寝場所と机しかない部屋へ戻る。
言葉遣いで王族や身分の高い人だとはわかった。もう会うことも話すこともないだろう。
そう思いながら眠りについた。
[return]