※アイオリア5歳、サガ13歳の時の過去捏造小話



遠い星を数えて



ガタリ。
微かな物音か奥の部屋から聞こえてきた気がして、ペンを走らせる手を止めた。


足音を殺し、息を潜めて、そっと部屋のドアを開く。
眠っている筈の幼子が、慣れない寝床に、うっかりベッドから落ちたのかもしれない。
そんな事を思いながら覗き込むと、幼いその子は眠ってなどなくて。
ベッドの上にチョコンと座り、ジッと窓の外を眺めているではないか。


「……アイオリア。どうした?」
「サガ?」
「眠れないのか?」


ゆっくりと近付いて、その横に座る。
敢えて灯りは点けなかったが、金茶の癖毛頭がコクコクと上下に動いたのが、部屋の薄闇の中に浮かんで見えた。
ハードな修練をこなして疲れ果てているだろうに、眠れないという事は、やはり慣れない場所では寝付けないのだろう。
他の子供達と一緒の場所――、彼と同じ年頃の候補生が集まる訓練所で寝泊まりさせた方が、やはり良かったのかもしれない。
思わず、そんな事をポロッと漏らせば、今度はフルフルと首を左右に振ってから、アイオリアは私を見上げた。


「ダメだって、兄ちゃんがいってた。おれは、サガのところじゃなきゃダメだって。」
「どうしてだい?」
「おれは、みんなを、きずつけちゃうかもしれないって。おきてる時はイイけど、ねてる時はダメなんだ。」


本当は聞かなくても分かっていた事だ。
アイオリアは、その血統故にか、他の子供達とは比べものにならない程に早く、小宇宙に目覚めていた。
まだ幼い身に宿った、巨大な小宇宙。
起きている時には何とか制御出来てはいても、無意識下となれば話は別だ。
睡眠時、例えば怖い夢などを見てしまった時などに、小宇宙の暴発を起こす事が稀にある。
傍に彼の兄が居れば、それを抑え込む事も可能だが、訓練所ではそうはいかない。
アイオロスは、それを恐れて、私の元へと弟を預けたのだ。


いつもと違う環境にあっては、寝付きも悪いだろうし、悪い夢を見てしまう可能性も高い。
訓練所に預けたなら、他の子の身に危険が及ぶ。
小宇宙の暴走が起こった場合、それを止める者が近くに必要だ。
常には、当たり前にアイオロスが担っている役目、それを頼めるのは私しかいないのだと、彼は笑顔で頭を下げ、そう言ったのだ。
せいぜい後一年。
直ぐにアイオリアは無意識下でも制御出来るようになるから、それまでの間、自分が任務で居ない時には、弟の事を見ていて欲しい。


厄介な頼み事だったが、引き受けない訳にはいかなかった。
幼い候補生達を教え導く事も、守る事も、私達に課せられた使命。
アイオリアだけが特別扱いだと言われようと、そうしなければ他の子達を守れないというのなら、私は従うしかない。


「サガは、ねないの? もうよるだよ。」
「まだ報告書が出来上がっていないんだ。」
「でも、つかれたかおしてる。いっしょにねようよ。」
「しかし……。」


グイグイと服の袖を引っ張られ、強引にベッドへと引き込まれる。
小さなアイオリアの隣で横になり、ニコニコ笑う顔を眺めながらホッと息を吐けば、何となくアイオロスの気持ちも分かるような気がした。
少しくらい報告書の提出が遅れたって、然したる問題もないだろう。



‐Aへ続く‐



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