[治]


今日は朝早くから近くの山に薬草を採りに来ている。
そしてそんな私について来てくれた付喪神や低級な小さな妖達。
これがもう本当に可愛らしい!!!


「あっ、そうそうこれこれ!」

「キィ!」

「ありがとうね」


小さな手で背伸びして差し出してくれる薬草を笑顔で受け取る。
そしてそのまま人差し指で頭を撫でてあげれば「キィキィ!」と嬉しそうに鳴く。


(あぁもう可愛いなぁほんとに!)


以前言霊の力で怪我をしていた付喪神を治してあげたのを切欠に懐かれたのだが、こうして手伝いもしてくれるし今ではすっかり可愛いお友達だ。
ちなみにこの子の事を私はキィちゃんと呼んでいる。
私はキィちゃんを両手で掬い上げると持ってきていた籠の中へと目を移して、次に空を見上げる。


「そろそろお昼時かな〜。
薬草もけっこう集まったしそろそろ帰ろうか」

「キィ!」

「ん〜でも他の子達はどこまで行っちゃったんだろう?
あんまり遠くまで行っちゃダメだよって言ったのになぁ」

「キィ・・・」


キョロキョロと辺りへと視線を向けてみるが、一緒について来てくれていたはずの他の子の姿は見えない。
さてどうしようかとキィちゃんと目を合わせたその時、ガサガサと草を掻き分ける音が微かに耳に届いた。


「麻衣!麻衣!」

「あっ、そんなところに!
他の子達はどうしたの?もう帰るよ〜」

「いいからいいから!こっちこっち!早く早く!」


草の陰から飛び出して来たのは私がコダマちゃんと呼んでいる低級の妖だ。
しかし様子がおかしい。
急いでいる様子で私の足元まで来ると、じれったいと言わんばかりに小袖の裾を引っ張り始める。


「どうしたの?何かあるの?」

「怪我怪我!」

「えっ?」

「麻衣、治す!麻衣、治す!」


耳に届いた単語はとても穏やかなものじゃない。
頭がスッと切り替わる。
私はキィちゃんを籠の中に下ろすと、今度はコダマちゃんを掬い上げる。
そしてコダマちゃんがやって来た草むらの方へと走り始めた。


「どっち?コダマちゃん!」

「あっちあっち!」

「まだ先?」

「もうちょっともうちょっと!」


コダマちゃんの道案内で進んでいると、一緒に薬草採りに来てくれていた他の子達の姿が見えてきた。
きっとあそこだ。
私がその子達の元へとスピードを上げて向かう。
そして辿り着いたのは大きな木の根元だった。
皆が心配げな目を向ける先には1匹の猫の姿・・・
前足の辺りから背中にかけて大きな切り傷がある。
その小さな体には不釣合いな深い傷に、私が判断を下すのは早かった。


「待っててね、今治してあげるから」


籠とコダマちゃんを地面に降ろしてから、猫の前へと膝をつく。
警戒するように向けられる視線に安心させるように笑みを浮かべてからそっと手をかざした。
そして気持ちを落ち着けて、呼吸を意識しそっと呟く。


「"治れ"」


言霊の力を使う。
普段は妖に襲われそうになった時以外は出来るだけ使わないようにしている。
どこから私の力のことがバレるか分からないし、今以上に生き肝を狙われる日々なんてごめんだから・・・
でも生死が関わっているなら話は別。
それにコダマちゃん達が助けたいと思った子なんだ。
きっといい子なんだろう。
私はコダマちゃん達の視線を感じる中、暫くしてからそっとかざしていた手をのける。
すると傷は綺麗に治っていて、その事にホッと息を吐いた。


「良かった。もう大丈夫だよ」


私が笑顔でそう言えば、猫は傷があったはずの場所へと確認するように鼻先を持って行った。
そしてゆっくりと立ち上がって、私を真っ直ぐと見上げる。


「不思議な力を持つ人間の娘じゃの」

「あっ、猫さん喋れたんだ。
どこか他に痛む場所はありますか?」

「いや、大丈夫だ。
すまなかったな人間の娘。礼を言う。」


見た目の可愛らしさに似合わない落ち着いた声と喋り方だ。
実はこう見えて長寿でお偉い猫さんなのかもしれない・・・
とりあえず頭を撫でるのは止めておこうと笑みだけを返した。


「私とした事が新参者らの小競り合いに巻き込まれてこのざまだ。
最近京にも血の気の多い奴らが増えおって・・・」


猫さんはどこか呆れたように溜息を吐いてゆるりと尾を振った。
今気づいたがスラリとしたその尾は2本ある。
思わずその尾を目で追っていれば、猫さんがスッと姿勢を正した。


「人間の娘よ、お主も十分気を付けるがいい。
・・・・・その力は、幸も呼ぶが災も呼ぶ。」


真っ直ぐ向けられる瞳。
その言葉と視線に込められた意味に、あぁやっぱりこの猫さんはいい子なんだと自然と笑みが浮かんだ。


「はい。猫さんも気をつけて下さいね」


ニッコリと微笑んで答えれば、そんな私をどこか呆れたような表情で数秒見上げてから猫さんは去っていった。
小さくなる背を最後まで見送って、私はキィちゃん達に帰ろっかと笑みを向けたのだった・・・





(変わった人間の娘だ・・・)


軽い身のこなしで登った高い木の枝から視線を向ける。
妖達をつれた不思議な力を持つ人間の娘・・・
確かに深く負ったはずの己の傷を意図も簡単に治してみせた。
あの力を知れば欲する輩に狙われるのは必須。
それを回避するには力を使わないのが一番なのは分かりきっているだろうに・・・
そこで思い出すのは最後に見せた笑み。
あの人間の娘は全てを分かった上でこれからもあの力を使うんだろう。
先ほどのように、己のためではなく他人のために・・・


(本当に変わった人間の娘だ・・・)


同じ人間のためならいざ知らず、自分達のような存在のためにも力を使うとは・・・
だが、だからこそ種を超えて慕う者がいるんだろう。
何せあの人間の娘は妖に憑かれているのではなく連れていたのだから・・・
まるでそれが普通であるのように共に遠ざかる背から、私はその行く先へと目を向ける。


(これからこの京の地で起こるであろう騒ぎに巻き込まれなければいいが・・・)


自分に比べいくらその生が短いと分かってはいても、それを惜しむ程には借りもある。
さらに不思議と惹かれるものがあるのも確かだろう。
そう言えば新たに京入りを果たした新参者達・・・


「確か”奴良組”と言ったか・・・
魑魅魍魎の主、羽衣狐が統べるこの京の地でどこまで奮起できるかは見物じゃな」


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