[生]

風に乗って桜の花弁が一枚ふわりと飛んできた。
今年ももうそんな時期かと自然と足を止め庭先へと視線を向ける。
私がこの世界に生まれて早数年・・・
最初はどうなるかと思ったが、何だかんだで慣れるもんだなと苦笑を浮べた。


「前世の記憶付の転生とか・・・」


それこそ前世でよく見ていた小説の設定のようだと思えた・・・





そう、私には前世の記憶がしっかりハッキリと残っている。
そりゃー始めは驚いた。
だって学校帰り、確かに私は事故にあったはずだったのだ。
でも次に目を覚ませば赤ん坊。
もう意味がわからない。
しかし事故にあった事を思い出せば『あぁ、私死んだんだな・・・じゃあ私生まれ変わったんだ』と理解できた。
でも何故だかは分からないが生まれ変わる前の、つまり前世の記憶がバッチリ残ってるんですがどういうこと?
あれ?普通生まれ変わったら前世の記憶とか無くなるもんじゃないの?って感じだった。
でも自分に害が無いものは基本スルーする性格だったため、気にせずに第二の人生を歩む事に決めた。

しかし衝撃はまだ続いた・・・
聞こえてくる単語が妙に古めかしかったのだ。
目が見えるようになってからは、周りの人間全員着物だという事にも気付いて唖然。
どうやら私は前世よりも昔の時代に生まれ変わってしまったらしい。
これには正直かなりガッカリした・・・
だってネットが、漫画が、アニメが、てかぬらりひょんの孫の続きが気になって仕方なかったからだ。
ちょうど前世で死ぬ少し前ぐらいからハマっていた漫画。
私はその『ぬらりひょんの孫』という漫画が非常に大好きだった。
むしろ愛していた。
昼のリクオの可愛らしさにトキメキ、夜のリクオのカッコ良さに惚れ惚れしていた。
でも何よりも400年前の若かりし頃のぬらりひょんに打ち抜かれた・・・
何あれ反則、なんであんなに男前なの?カッコ良過ぎて呼吸止まると本気で思っていた。
でもそんなぬらりひょんと珱姫のカップリングには素直に憧れ一番好きだと言えた。
それまでは夢小説ばっかり読んでいた私・・・
公式CPを好きになれたのはこの二人が始めてだと断言できる。
しかしこの生まれ変わった時代ではそんな二人の話が読めないのだ。
だって部屋中、むしろ家中探したって電気が無い。
正直ガッカリを通り越して軽く絶望した。

でも無い事にも時間が経てば慣れるもの・・・
そもそもネットがあったって自分一人で外にも出れない歳だ。
私はその限られた世界の中で、第二の人生を自分なりに受け入れようと決意した。
そして気付いたのだが、どうやら私の生まれ変わった家は公家屋敷。
所謂上流貴族ってやつだった。
そのため生活には不自由しなかったし、何より母親が物凄く優しくて超絶美人だった。
正直父親を見た時は『えっ?何故これと結婚したし・・・』と思ったほど釣り合いが取れていなかった。
さらに言えば、私はこの世界での父親が好きではなかった。
何かこう、胡散臭いと言えばいいのか・・・
とにかく私は父親の顔を見るたびに『この男に母上は勿体無い・・・』と密かに思っていた。

まぁそんな私も順調に成長して2年が経った頃、自分が姉になる事を伝えられた。
つまり母上が妊娠した、赤ちゃんが出来た、・・・あの男の。
最後の1点を除けば嬉しい限りだ。
前世での私は一人っ子だった。
だから弟や妹という存在に強く憧れていた。
純粋に嬉しかったし、私はその喜びを母親に伝えて一緒に笑みを浮べた。
そうして季節は流れ、桜の花が満開の日・・・私に妹が生まれた。
しかし嬉しさで浮かんでいた笑顔は、生まれたばかりの妹に付けられた名前を聞いた瞬間ピシリと固まった。
だって、私のその待望の妹の名は『珱姫』。
一瞬と言わず、数十秒時が止まった。
そして脳が活動を再開した瞬間に大パニックだ。


(えっ?!ちょっ、待って!!!
珱姫って、まさかあの珱姫?!ぬら孫の?!
京都一と謳われる絶世の美女が私の妹?!
ちょっと待て!本気で待て!!!
ならここぬら孫の世界って事?!
えっ?つまり転生?
ちょっと待ってよ、どうせならトリップしたかったんですけど!!!


もうこの時の私の混乱と言ったら前世からカウントしても一番だったと言える。
でも混乱もパニックも最初だけ。
だって冷静になって考えれば嬉しい限りだ!
前世で心をガシッと掴まれたぬらりひょんと珱姫二人の展開をこの目で見れるかもしれないと思うだけでニヤニヤが止まらない。
その日から私の『早く時間経て!400年前の時間軸に追いつけ!』と思う日々は始まった・・・
・・・いや、始まって呆気無く3年と経たずに終わりを告げた。
だって・・・・・





「姉上様!」


庭先へと視線を向けたまま思考に耽っていた私の背に可愛らしい声が届いた。
振り向いて、いや振り向く前から顔がにやけてしまった私を責めないでほしい。


「どうしたの珱?」

「姉上様!またお話を聞かせて下さい!」


トタタタタッとやって来て、キラキラと可愛らしい目で見上げてくる我が妹。
いやもう断言できる。
この子以上に可愛い子がいるはずがない。
幼いながらに綺麗な漆黒な髪に、白い肌、赤い唇、そして透き通るほど綺麗な瞳。
もう将来絶世の美女になるなんて分かりきってるよ!
京都一とか生温いね、日本一、いや世界一だよこの子!!!


「あぁもう、珱可愛い・・・大好き」

「私も姉上様をお慕いしております」


思わず抱きしめれば、小さな手が背に回る。
あぁもうヤバイ、何これ超幸せ・・・
正直ぬらりひょんにも珱は勿体無いと思う、現在本気でそう思ってしまっている。
そう、ぬらりひょんと珱姫二人の展開を楽しみにしていたはずの私は、うっかり幼い珱の可愛らしさにノックダウンされていた。
だってこんな可愛らしく『姉上様!』とか笑顔向けられるんだよ?
そりゃシスコン上等!ってなっても仕方ないと思うよ私。
私はニッコリと笑顔を浮かべて珱へと口を開く。


「よしっ、私の部屋でお話しようか」

「はいっ!私、姉上様の話して下さるお話大好きです」


小さな手を握って、再び笑顔。
うん、原作が始まるまで、せめて始まるまでは仲の良い姉妹でいさせてほしい。
再び風に乗ってきた桜の花弁を見て嬉しそうに輝く珱の表情に、私は微笑み返して優しく頭を撫でた。

それはまだ、月を思わせる彼に出会う前の話し・・・


- 1 -

[*前] | [次#]
ページ:
紡ぎの言の葉TOP
サイトTOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -