moonlight Cinderella


「ねぇエド。もし私が、月下美人みたいに明日、死んでしまったらどうする…?」



この花ほど残酷で、哀しい言葉は無いと思う。




















          moonlight Cinderella




















「エド、起きてる…?」


控えめなノックの後に響いた彼女の声に、

ベッドに横たわって天井を仰いでいたエドワードは、ゆっくりと体を起こした。


「マイ、どうした?」


ドアの向こうから顔を覗かせたマイの表情がとても暗いものだったので、

エドはゆったりとした口調で問いかける。


「……少し…、一人で居たくなくて……。」

「んな所に突っ立てると風邪引くぞ?こっち来いよ。」


いくらか昼ごろは暑いほどだったが、やはり夜は肌寒い。

薄着の彼女を気遣って、エドは優しく笑い掛けた。

しかし、それとは裏腹にマイの表情はどこか暗く、その瞳には翳りがあった。


「どうした…?」


自分の隣に座った彼女の頭を優しく撫でながら、先程と同じ質問を繰り返す。

マイは彼の優しさにどうしようもなく泣きたくなった。


「……なんでもないの、本当に。」


無理やり作られたような笑みに、エドは呆れたように苦笑した。


「お前、嘘吐くの下手だろ?」


顔に書いてある、と彼は一層笑みを深くする。

マイは、赤くなった頬と、目尻に浮かんだ涙を悟られたくなくて、深く俯いた。



「ねぇエド、月下美人て知ってる…?今庭に植えてあるの。」

「あぁ、あれだろ?」


マイはそれを誤魔化す様に突然立ち上がり、窓を開けて庭を眺めた。

エドもそれに続き、隅に植えてある一つの花を指差した。


宿主が趣味で植えたのだろうか、

そこには深い闇夜に染まらない、純白の花が煌々と咲いていた。


「月下美人ってね、一晩しか咲けないんだよ。」


夕方から真夜中にかけて花開き…一夜だけに短い命を輝かせ消えてゆく。

限られた時間の中でしか輝けないその花は、何よりも美しく、咲き誇っていた。


それでも、


誰にも見られる事無く、散ってしまう事もある。

月下美人は未練などなく、誇らしく散って逝くのだろうか…。


「とても…悲しい花。」

「…あぁ。」

マイはその白く輝く花に、どこか自分を重ねて見ていた。

だからこそ、今までどうしても怖くて言えなかった言葉を、ゆっくりだが吐き出せた。


「ねぇエド。もし私が、月下美人みたいに明日、死んでしまったらどうする…?」



刹那、風がその花の芳香を乗せて、エドの部屋へと吹き込んだ。

突飛過ぎるその言葉に、エドは呆然とマイを見た。


「…なっ……」


何馬鹿げた事を、と言おうとしたが、彼女の瞳が真剣その物で、笑い飛ばす事など出来なかった。

悲しげに微笑んだ彼女の顔を、エドは思わず凝視した。

そしてもう一度、マイはその言葉を紡ぎ出した。


「もし私が、夜が明けると共に、消えてしまったら、エドはどうする…?」



”貴方を置いて、私が逝ってしまったら、貴方はどうする…?”


一言一言確かめるように、マイはゆっくりと口を開いた。

その言葉がエドワードの心に深く沈みこんだ。

まるで鉛のように重い言葉。

命の尊さを知っている彼女だからこそ、それがとても辛く、苦しい。


エドは暫くマイの顔を見ていたが、心を決めたように、すぅと瞳に静かな色を宿した。

答えなんて、もう既に決まっている。

考えなくても分かる。


「お前それを言う為に、わざわざ夜中に俺の部屋来たのかよ。」


素直になれなくて、やはり小馬鹿にするように微笑してしまう。

それがもどかしくて、エドはゆっくりとマイを抱き寄せた。

こつり、と額を合わせて、マイの顔を覗き込む。


「俺は、信じてるだけだから。」


否、信じることしか出来ない。


永遠等無いと分かっている。

増してはいつか別れてしまう関係。

永遠も一生も有得ない。


それでも…


「俺は、お前が居ればそれだけでいいから。お前が居なくなるなら、俺も居なくなる。」

「…エド…ちが…っ」

「今が続けば、それで良いんだ。」

「…っ……」


必死に涙を堪えていたマイだが、堰を切ったようにそれは溢れ出した。


「…良くな…っ…」


もうすぐ、あの花のように

私は、貴方の傍には居られなくなるから…


「…それ以上言うなよ。…俺は未来なんか知らない。」


今ここに居るのは確かだから、彼女がこの腕から離れて行く事なんて想像も出来なかった。

現実味は無いけれど、それでもいつかは死が二人を引き裂くだろう。

否、生きてる内でも離れてしまうかも知れない。


「俺は、お前が先に死んでも、俺が先に死んでも、忘れることは無いから。

どっちが先に死ぬとかは、今は考えるのも無駄だろ?」


今まで過ぎてきた時間が、無意味だったとは思わない。

月下美人も意味も無く命を終える訳ではない。


逃げているだけでも良いから、理由なんてなくて良いから。

どうか今は、先なんて見ないで。






「…エド、月下美人の花言葉知ってる…?」

暫く抱き合っていた二人だが、泣き止んだマイが口を開いた。

「さぁな。」

「真実の時と強い意志。それから…」






「只一つだけの恋」





愛する人の死は、何よりも重い刑のように、心に大きな穴を開ける。

それでも、誰よりも思うことは出来るから。

誰かを想い、愛する事は時間ではない筈だから。


只、在るがままに、未来を信じられなくとも、

馬鹿でも良い、無様でもいい。

見えている現在までも、今のときまでも否定しないで。


どんな悲しみよりも、

その強い意志と深い愛しさが勝るように。


















It is kiss of moonlight to transitory beautiful you...











あとがき




『BLUE SAPURI 』のサプリ様への相互記念捧げ物でした。

時間掛けた割には纏まりに掛けてます…(泣)

糖度低くてすみません…!
返品可ですのでいつでも付き返してください!!(返品されないものを書きなさい…)


ちなみにこの小説の題名のmoonlight Cinderella(ムーンライトシンデレラ)は、月下美人の英国名です。





<光彩陸離>の管理人、冷月様から相互記念に頂きました♪


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